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第35話
「あっ」
「ん?どうした」
志乃のお父さんに向かって勢いよく頭を下げる。
「は、初めまして」
「··············」
「佐倉梓、です」
「ああ。知ってる。お前は本当に──···」
挨拶をして、満足した俺に返ってきた志乃のお父さんの言葉は俺を、どん底に突き落とした。
「──···記憶を失くしたんだな」
「···え?」
志乃は慌てて「親父、まだそれも伝えてねえ」と上体を前のめりにして言う。
「そうだったのか。悪い」
「···梓、今からする話は、本当の事だ。お前がいくらそれを信じなくてもな。わかったか?」
志乃が強い目をして俺にそう言った。
記憶を失ったと言われて、少しパニック状態だけれど、気付かないふりをして頭を縦に降る。
それを確認した志乃のお父さんは、「どこから話そうか」と悩んだ末──···
「お前は、俺の甥になる」
と爆弾発言を投下した。
「え、っと、どういうことですか?」
「お前の母親は、俺の妹だ」
「妹···?」
「ああ。」
志乃のお父さんは優しい顔で頷く。
「俺の妹はまず、政略結婚だなんだと言って俺の親父たちに半ば無理矢理結婚させられた。そしてお前が生まれたが···嫁いだ先で散々な暮らしを強いられた。」
どうやらそれは俺の本当に小さな時の話らしくて、俺にその記憶が無いのは仕方が無い。
「それで親父たちが離婚させたんだ。その時の妹は見てられないくらい憔悴していた。だからなんの手続きもすること無くて、名前は佐倉のままだった」
「は、はあ」
「その後、妹は再婚した。そんな時病気になっちまって、妹は死んだ。残されたお前は新しい義理の父親の元で、育てられたが···」
志乃を見た志乃のお父さんは、これから先を自らの口で言うべきかどうかを悩んでいた。
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