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第36話

「お前は虐待されて、死にそうになったんだよ。その後施設に捨てられた。お前の義理の父親はそれをずっと隠していた。そのことをお前と会うその日まで俺達は気付けずにいた。」 「お、俺が、虐待?」 「ああ。お前はそのショックで記憶を失くしてる。事実、俺のことを知らなかった」 「でもそれは、小さい頃に会ってた程度なら──···」 「なら、父親の顔は思い出せるか?母親は?」 詰めるようにそう聞かれて、俺はバクンと胸がうるさくなる。 「父親、は···」 「志乃やめろ。梓、無理に思い出さなくていい。」 志乃のお父さんにそう言われてうんうんと頷く。 「梓、信じられないならそれでもいい。だがお前はれっきとした眞宮家の人間だ。何か困ったことがあればいつでも頼ればいい。」 その優しさが嬉しくて、ほろっと涙が落ちていく。 「志乃はお前の従兄弟になる訳だしな。仲良くしろよ」 そうだ、よくよく考えたら志乃は俺の従兄弟になる。 つまり俺は、不本意ながらも従兄弟である志乃と何度も体を重ねている。 「し、志乃···」 「あ?」 「俺、家に帰りたい」 「お前の契約してた家か?もう無いぞ」 「え、何で···?」 「お前はこれからも俺と暮らすから」 何でもないというようにそう言った志乃に目を見開く。 「な、何でっ?」 「記憶も思い出せてねえお前を1人で暮らさせるわけがねえだろ。何かあった時気付けなかったら俺の責任になる。お前は俺の目の届く場所で生活しろ」 「大学はっ?」 「諦めろ。眞宮の家系で大学を出た人物を俺は知らねえ」 サーっと血の気が引いた。 助けて欲しくて志乃のお父さんに視線を送ると「確かにそうだな」と笑っている。 「兎に角、それでもこれからの将来は心配しなくていい。お前は大人しく俺に見張られてるんだな。それが嫌なら早く思い出せ」 志乃も、志乃のお父さんもその考えで一致しているらしい。 俺は仕方なく頷いた。 「お前までこっちの道に引き込むつもりは無い。」 志乃のお父さんはそう言って、また優しく笑った。

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