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第40話
***
それから数日経った今日。
天気は雨で、窓から見えるどんよりとした空に何故か呼吸が少し早くなって、それを誤魔化すために溜息を吐く。
「おい、溜息を吐くな。こっちまで気分が沈むだろ」
「だって、ほらみて。雨だ」
「ああそうだな。」
「雨の日は憂鬱になるでしょう?」
「別に。そっちの方がありがたい時もあるしな」
「え、何で?」
純粋に疑問を口にすると志乃が視線を逸らした。
「ねえ、何で?」
「···雨だと、銃声も小さくなる」
「···成程」
思っていたよりも重たい回答に息が詰まりそうになる。
「志乃は···人に暴力を振るうの」
「···仕事柄な」
「···それは、俺の2人目のお父さんと、何が違うの?」
「あれと同じにするな。俺は俺の信念でやってる。」
信念で振るう暴力と、そうじゃない暴力の違いがわからない。
「志乃」
「何だ」
「志乃は、小さい頃、俺と会ったことあるの?」
「ある。お前の母親が再婚するまでの間、お前は本家に居たんだ。その間、俺は···疲弊したお前の母親に変わって、お前の世話を見るためにずっと一緒にいた。」
「そう、なんだ」
記憶がなくて、それが本当かどうかを疑ってしまう。きっとそれはひどいことなんだと思う。
「俺、志乃のこと、何て呼んでた?」
「···確か、志乃って呼び捨てだったぞ」
「えっ、嘘!」
「本当。昔から生意気だった。馬になれとか言って俺の背中に乗ってきたりな」
「嘘!作り話!」
「こんなことで嘘つかねえよ。」
志乃は笑ってそう言う。
多分初めて見たその笑顔に、ドキッとしてしまった。
「梓?」
「な、なんでもない」
顔を背けて、ソファーにドサッと座った。
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