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第49話 志乃side
梓を深く傷つけたことはわかっている。
それなのに俺にくっついて時間を過ごす梓は、今はうつらうつらとしていて、梓が風呂に入っている間に綺麗にしたベッドに梓を運ぶと大人しく目を閉じて眠る。
むしゃくしゃとしたものが胸の中にあって、仕事の用事もあるからと夏目に電話をかけた。
「───お疲れ様です。夏目です」
「お疲れ。明日朝9時には本家に行く。車を寄越せ」
「わかりました。」
「············」
「志乃さん···?」
夏目に話すべきかわからずに、無言になると心配そうな声で夏目が俺を呼ぶ。
「梓に酷いことをした」
「···酷いことって?」
「···強姦紛いなこと」
そう言うと夏目が溜息を吐いたのが聞こえてきて、そりゃあ呆れるよなと俺も自虐気味の笑みを漏らす。
「俺も強姦紛いな事をされるのは嫌ですね。それがどれだけ好きな人でも」
「···ああ」
「悪いとは思ってるんでしょう。なら謝るしかないです。許して貰えるかは知りませんけどね」
「···夏目」
「何ですか?」
梓は、これを望んでいない。
早く外に出たいと思っているはずだ。
「梓の記憶についてだが···ショック療法って奴は有りか?」
「無しです。それなりのリスクがあるって聞きますから。もしそれをして、その後のケアをしてあげるならまだしも、貴方はそこからはきっとノータッチでしょうし。」
「そうか」
「志乃さん。焦らずにゆっくりですよ。でもどうしても無理だと思ったのなら、親父に早めに言うべきです。」
夏目の言葉に頷く。まだ大丈夫だと心の中で呟いて。
「梓さんは?」
「寝てる。」
「起きたら1番に謝ってくださいよ。明日、どうなったか聞きますからね」
「わかったよ」
「じゃあ、失礼します。」
電話を切ってソファーに寝転がる。
梓が起きたら、素直にちゃんと謝ろう。そう思いながら目を閉じた。
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