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第50話
昼の3時頃、梓が怯えた様子でリビングにやってきた。俺はそんな梓を見て、すぐに罪悪感に蝕まれる。
「梓」
「ぁ···は、はい」
「悪かった」
素直に謝って頭を下げた。普段なら絶対にしない行動だけれど、今回はきちんと謝らなければいけないと知っている。
「···俺も、し、志乃を怒らせるようなこと、ばっかりして···ごめんなさい···っ」
「···別に」
少しの沈黙が走る。
そしてそれを破ったのは空気の読むことの出来ない空腹を知らせる腹の音。
それは確かに梓の方から聞こえた。
「あっ···!」
「···飯食うか?」
「···う、うん」
とっくに昼飯時は過ぎている。軽くご飯を用意してやると嬉しそうにそれを頬張った。
「梓」
「んっ、うん、何?」
口に入ってたものを飲み込んでそう聞いてくる。
「体、辛くねえか」
「···大丈夫、です」
「···そうか」
また振り出しに戻った。
以前よりも遠くなった距離に反省はしているが、後悔はしていない。
「明日、朝から仕事に行ってくる。もう今朝みたいに繋いだりしない。どこかに出かけたいなら出かけてもいい。···だが必ずここに戻ってこい。」
「え、で、出てもいいの···?」
「いい。」
梓には言わないが、梓が家を出ると俺に自動的に連絡が来るようになっている。
「逃げるって、思わない、の···?」
「そうなればどんな手を使っても追いかけて捕まえる。今度こそ外には行けなくなるけどな。」
「···逃げないです」
「良い判断だな」
さて、これから俺は何をしようか。
久しぶりに自分で部屋の掃除でもして、気分を変えるのもありだな。
「梓、お前が飯を食ったら俺は掃除するから、部屋に行ってろ」
「へ、部屋···?」
「寝室だ。暇なら書斎に本はあるから勝手に読んでもいい。それに体が辛くないなら外に行ってもいい。もし外に行くなら1時間後には迎えに行けるようにしてやる」
「···ちょっと、考える」
梓は少し急ぐように食事をして、空になった皿を見て手を合わせ「ごちそうさまでした」と言った。
「貸せ」
「え、でも···自分で···」
「いいから。掃除のついでだ」
空いた皿を手に取る。キッチンに持っていき皿を洗って、掃除機を当てるかと物置からそれを取り出した。
「梓、部屋行くか外行くか、どっち」
「あ···部屋にいます」
「わかった」
梓が寝室に戻って行ったのを確認してから掃除機を当てる。明日は朝から仕事だし、今この家にいるよりかは気楽でいられると思うけれど、仕事も面倒臭い。
「はぁ」
深い溜息を吐いた。
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