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第53話

食事が終わると志乃は言っていた通り、寝室に行って眠り始めた。 俺はまた志乃の書斎に入り、本をいくつか手に取ってリビングで開く。 志乃の持っている本は面白い。また夢中になっちゃって、気づけばおやつの時間だ。 そんな時、ブーブーと机の方からバイブ音が聞こえてきた。立ち上がってそっちに寄ると志乃のスマホが震えて、着信を伝えている。 慌ててそれを手に取り、志乃のいる寝室に入って、気持ちよさそうに寝ている志乃の肩をトントンと叩く。 「志乃、志乃!電話だよ!」 「······誰から」 「えっと···夏目さん!」 「後で掛け直すって言え。今は無理」 そう言われて頷き、電話に出た。 「お疲れ様です、夏目です」 低い声が鼓膜を揺らして、俺は少しドキドキしてしまう。 「あ···あの、志乃が後で掛け直すって···」 「···もしかして梓さんですか?」 「はい」 「そうですか。···わかりました、では連絡待ってますと伝えてください」 「はい、失礼します」 電話を切ると変に肩に入っていた力が抜けた。 志乃の眠るベッドの淵に腰掛けて、「はぁ」と息を吐く。そんな俺を寝ぼけ眼で見た志乃は「何て言ってた」と聞いてくる。 「連絡待ってるって」 「わかった。15分したら起きる」 「うん」 すぐ寝息を立て始めた志乃を起こさないように、静かに寝室から出た。

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