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第55話 志乃side
「梓さん、可愛らしい人ですね」
家を出てすぐ、夏目がそう言った。振り返ると柔らかく笑っていて、それが本心なのかどうか分からずにじっと見つめる。
「俺、勝ち目ありますか」
「···夏目、仕事だ。余計なこと考えんな」
「···すみません」
夏目は瞳を伏せて、俺の後ろを歩き、乗ってきた車に乗りこんだ。その後部席に乗り、目を閉じる。
「···志乃さん」
「あ?」
「時間、空いてませんか。どのタイミングでもいいです。お願いします」
「この仕事が終われば空いてる。」
「じゃあ、それからの時間を俺にください。1日だけ」
「わかった」
それから本家につくまで、車内は沈黙に包まれる。
車から降りて、夏目を含む幹部を連れ親父の部屋に行けば資料を渡され、それを受け取って幹部を連れたまま自室に行く。資料を見ると薬の密売が今日行われるということが書いてあった。
「薬の密売だ。それぞれ自分の部下をつけて動け。失敗は許さない」
「はい」
「そこにいた奴らはとりあえず、全員捕縛しろ。」
その命令をし、資料をそれぞれに渡す。
うちの幹部は夏目を含め、四人いる。
幹部であり、俺の側近である夏目に、黒髪でツリ目の見た目からヤクザのような相馬。
外面も内面も少し幼いが頭の切れる速水に、オッドアイでどこか神秘さを感じ冷酷非道である神崎。
そして、それぞれが自分の部下をつけている。戦闘能力は何処も同じと言ったところだが、考えることやチームプレイなどはバラバラで、仕事によって使い分けていたりする。
「今日0時だ。バレるな」
「はい」
「各自、それまで準備をしておけ。解散」
全員部屋を出て行って、俺一人になる。
溜息を吐いて自分も準備をする。俺は車に残り相手の様子を伺い、何かあれば現場に向かうが、基本的に幹部に全てをやらせるつもりだ。一応の武器は持っているが、うちの幹部は最高だ、俺が出る幕はないだろう。
「若、神崎です」
「入れ」
さっき出ていった神崎が戻ってきた。
灰色の瞳と水色の瞳が俺を見ている。
「夏目は外した方がいいと思います。」
「何故だ」
俺も薄々感じているそれを、神崎は読み取って今その言葉を口に出している。
「危険な現場に、仕事に集中してないやつを連れていけば怪我人が出ます。それに最悪、死にます。」
「···神崎」
「はい」
「夏目を連れて行くか否かは、出発時、お前が決めろ。お前の出した答えに俺は文句を言わない。だが人数が一人欠けることは理解しろ。」
きっと梓に会ってしまったから気持ちが揺らいでいるのだろう。タイミングを間違えたな、と少し反省する。
「若自身はどう考えていますか。俺は今すぐにでも決断できます。今の夏目は足でまといになる。」
「俺は仕事に支障が出るなら置いていけと言った。出発時の様子を見て判断しろってな。」
「···そうですね。すみませんでした。」
「いい。あとは何も無いか?」
「はい」
神崎は一礼して部屋から出ていく。早く仕事を終わらせて、夏目と話をしないとな、とまた溜息を吐いた。
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