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第60話
「志乃さんは、たまに恥ずかしいことをするからそこが嫌です」
「それでもお前は感じてるだろ」
「だってそうしないと、恥ずかしくておかしくなりそうなんですもんっ!」
風呂に入り、夏目が俺にもたれながら愚痴を零す。
「まあ、別にいいだろ。俺はそれでお前を嫌ったりしねえから」
「···そう、だけど」
「それより、お前とちゃんと話さなきゃならないことがある。梓の事だ。風呂上がったら···いいか?」
「はい」
振り返って俺の肩にグリグリと額を押し付けてくる夏目。そんな夏目の髪を撫でながら、どうやって話そうかと悩んでいた。
***
ぐちゃぐちゃになったベッドを片付け、綺麗にした後、二人で珈琲を飲み、俺は煙草を吸う。
「梓さんのことで、お話ですよね」
「ああ。···前は梓が記憶を戻して出て行ったらって言ったけど···もういい、お前は好きな時に俺の家に来い。」
「えっ!」
「どっちにしろ変わらねえだろ。あいつは俺のただの従兄弟だ。あいつの事を抱いたりもしたが、それは···多分だが、好きの感情があったからじゃない。」
そう言うと、夏目は動きを止めてじっと俺を見る。
「あいつにとっての俺も、きっとそうだ。お前が嫌ならあいつが記憶を戻してからでもいい。」
「志乃さんの家に行って···前みたいに出来ますか?梓さんがすぐそこにいるのに」
「できるよ。···今のお前を独りにできない」
本当は、今夏目を独りにして過ちを繰り返すのが嫌だった。全部自分のためなのに、さも梓や夏目の為のように見せかけて言葉を吐く。
「ほ、本当に···?」
「ああ。我慢しなくていい。言いたい事は言えばいいし、お前になら何かを言われたからって突き放したりしない。」
「···っ、ふ、好きです···志乃さん···」
「ああ、知ってる」
夏目の額にキスをし、離れる。
夏目は泣きながら笑顔を見せて、俺が灰皿に煙草を置くと途端、抱きついてきた。
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