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第62話
志乃はキッチンで煙草を吸っている。
俺はリビングのソファーで1人、もやもやする原因を探していた。
志乃は俺にとって、ただの従兄弟だ。そりゃあ何度か強制されてセックスはしたけれど、俺も志乃も、お互いをそういう目で見てはいない。
志乃は俺のことをただの憂さ晴らしに使っていたんだと思うし、むしろそうじゃないとあんな酷い扱いができるわけがない。
きっと前から志乃には恋人がいて、俺がここに来たことでその人と会えないから、俺に八つ当たりしていたんだろう。
けれど最近、俺が真実を知って大人しくなったから、その人に会うための時間をちょくちょく作っているんだ。
「···納得いく」
「何のだ」
「わっ!」
後ろから声を掛けられて驚いて背中がピンっと伸びた。
「何の納得がいったんだ?」
「あ···本の内容。考えてたら···」
「へえ。···明後日、久しぶりの大学だろ。本を読むのはいいけど、お前、付いていけんの?」
「志乃が勝手に休ませたんでしょ。」
「まあ、そうだけどな。条件は覚えてるな?」
大学に行くことを許可してもらうために出された条件。覚えているに決まってる。
「わかってるよ。ちゃんと昼休みには電話するし、人の多いところにいるよ」
「明後日は何時にここを出たら間に合う」
「えっと···2限からだから···10時くらいかな」
「わかった。···あ、忘れそうだから先に渡しておく」
志乃が何かを思い出したようで、自らの財布を取り出し、そこからカードを出して俺に渡してきた。
「何これ」
「カードだよ。見てわかんねえのか」
「わかるよ!でも、これ···何で?」
「俺は弁当なんて作れねえからな。それで昼飯を買え。必要な物も買えばいい。ノートとか、要るんだろ」
そりゃあ、学生だからノートは必要だ。でも···学生がこんな···
「ブラックカードなんて持ってる学生居ないよ!?」
「うるせえな。それなら何処でも使えるだろうが。てめえの大学にコンビニはねえのかよ」
「あるけど!」
「ならいいだろ。お前がそのカードを持っていることを知るのはコンビニの店員だけだ」
怠そうにそう言った志乃は椅子に座り息を吐く。疲れているのか目を閉じて、そのまま眠ってしまうんじゃないかって思った。
「志乃、眠いならベッドで寝てきなよ」
「···いい。風呂洗ってくる」
「俺がするから休んでて。疲れてるんでしょ」
そう言ってお風呂場まで行き、浴槽を綺麗に掃除する。
「···ご飯も出来ることはしよう」
野菜やお肉を切るくらいなら、俺にもできるはずだ。
そう思いながら浴槽の中の泡をシャワーで流した。
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