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第65話 志乃side

結局、酒を飲んで泥酔し眠った梓。梓はあまりにも面倒くさくて、起こさないように起き上がり、リビングに行く。 そこのテーブルに置かれていた梓の飲んだ酒は1本と半分。それだけであんなふうになるのなら、これからはなるべく飲ませないようにしないと。 「はぁ···」 空き缶を片付けて、残った酒は勿体無いがシンクに流す。 そんな時、インターホンが鳴った。警戒しながらモニターを見ると夏目が立っていて、玄関に行きドアを開ける。 「どうした」 「えっと···早速、来ちゃいました」 「···入れ」 「はい。あの···梓さんは?」 「寝てる」 夏目を連れてリビングに行く。 「酒飲むか?今日はもう帰らねえだろ?ビールでいいか?」 「はい!」 冷蔵庫からビール缶を取り出しながら思ったことを口にする。 「何かあったのか」 「···寂しくなっちゃいました。多分···近いから、怖いんだと思うんです。思い出してしまって、すぐここに来ちゃって···」 「···成程な。症状は出てないか?」 そう言うと夏目は笑顔のまま、目からポロっと涙を流す。ああ、俺はまた気づけなかった。そうだ、あと少しで夏目の姉の命日だ。 「···おいで」 夏目に向かい腕を広げると、ゆっくりと近づいて俺に抱きついた。 夏目は高校3年の時、姉を亡くした。名前は里緒(りお)。死因は飛び降りによる出血多量だった。 里緒は俺と同い年で、高校で夏目に出会った頃からは仲良くしていた。一見明るい性格の奴だと思っていたが、本当はそうではなく、精神病を患っていた。 ある時両親が、夏目に里緒を任せて出かけた。その間に一瞬だけ、夏目が里緒から目を離すと、里緒は居なくなっていた。 どこに行ったのかと探していると、ドン、と大きな音が外から聞こえて、窓の外を見ると里緒が地面で血を流して倒れていたらしい。 それが夏目にとってのトラウマになって、里緒の命日が近づくと夏目は酷く不安定になる。 「夏目、大丈夫だ。」 「ふっ、ぅ···志乃さん···っ」 「昼は何も無かっただろ。急にそうなったのか?それとも···前からなっていたのか?」 「んっ、はぁ···っ、ほ、本当は···ずっと、不安で···薬飲んでて···」 ガタガタと震えている夏目を抱き上げ、ソファーに座り、夏目を膝に乗せて、そのまま背中を撫でる。 「怖かったな。気付いてやれなくて悪かった」 「···んっ、志乃さん···キスしたい、キスして···」 「ん」 泣いている夏目の後頭部を触り引き寄せる。唇を合わせ、舌を絡めると、もっともっとと強請るように俺の首に腕を回してきた。 「はぁ···ぁ、あ···志乃さん、もっと、欲しい···触って、おねがいっ、お願いです···」 「···梓が寝てる。声我慢できるか」 「んっ、する、するから···っ」 夏目の服の裾から手を入れる。素肌に触れると夏目の手が俺の胸に触れて浅く息を吐いた。 「どうした」 「···あ、梓さんに、バレたら···怒られますかね」 「今更そんなこと考えなくていい。」 夏目にキスをして、ソファーに押し倒す。 泣きながら俺を受け入れる夏目は、今にも消えてしまいそうだった。

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