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第67話
朝、陽が昇った。
寝室のカーテンを開けると刺さる光が眩しくて、目を細める。
寝室を出て、顔を洗いリビングに行けば志乃が煙草を吸っていて、夏目さんはソファーで眠っていた。
「おはよう」
「···ああ。」
「志乃」
「何だ」
志乃に近付いて、下から見上げる。
今じゃこんなに近い人だけれど、ほんの少し前まではすごく遠い人だった。
「···記憶、思い出した。だから···出て行く」
「···本当に思い出したのか?」
「うん。夜中に、ブワッてね。···それより、夏目さん来てたんだね。」
ソファーの方に顔を向ける。そこで、昨日、志乃と夏目さんは···
「梓」
「何?」
「出て行くのはいいが、どこに住むつもりだ。俺に言いたくなければ親父に言え。お前の居場所はちゃんとこちら側に伝えろ」
「あー···うん。わかった」
そんな話をしていると「ん···」と小さな声が聞こえ、夏目さんが目を覚まし、上体を起こした。俺と目が合うと驚いたように目を見開き、それから何事も無かったかのように「おはようございます」と言う。
「おはようございます」
「ごめんなさい、昨日夜にここに来て···」
「いいですよ。ここは俺の家じゃないし。」
ふふっと笑ってそう言うと、夏目さんは柔らかく笑った。
「梓、お前はこれからあまり酒を飲むな」
「え、何で?」
「昨日1本と半分で酔い潰れた。また一人暮らしを始めるなら、酔い潰れて何をしでかすかわからないからな」
「嘘!そう言えばお酒飲んだ後の記憶···無いかも」
志乃は呆れたように息を吐き、キッチンに消える。お皿の音とか、何かを切る音が聞こえてきたから、朝ごはんを作ってくれてるのだろう。
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