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第69話
「明日から大学に行くんだろ?運べるなら今日中に荷物運んじまうか?」
「えっ!いいんですか?」
「ああ。家具は···ここにあるものでいいなら、組員に運ばせておくが」
「そ、そんなにいいです!俺一人で出来るんで!」
そう言うと親父さんはケラケラ笑う。
「遠慮するな。志乃なんて自分から組員を貸せって言うんだぞ。今あいつの家にある家具は殆ど組員達が運んだ。」
「そうなんだ···」
確かに、志乃は力仕事とか嫌がりそうだ。
「それにあいつらも荷物を運ぶだけで金が稼げるって喜ぶ。」
「え···それじゃあ親父さんは損じゃないですか」
「いや、お前が俺を頼ってくれるなら、俺にとっては得でしかねえよ」
そんな親父さんの言葉が嬉しくて、泣きそうになる。
「ところで、一人で来たのか?志乃は?」
「今夏目さんが家に来てて···」
「···そう言えば、もうすぐか」
「あの···それ、どういう意味ですか?」
そう聞くと親父さんは目を伏せる。
それから意を決したように俺を見た。
「夏目の姉の命日だ。」
「···そういえば、亡くなってるって聞きました」
「夏目の姉は精神病を患っていて、ある日自殺をしたんだ。それも夏目と二人きりの時にな。そのせいで夏目は姉の命日が近づくと精神が不安定になる。あいつ自身も精神病にかかってるんだ」
だから、志乃を縋るように求めているんだ。それを知って悲しくなった。
夏目さんはもしかしたら、志乃がいなくなると死んでしまうんじゃないか、そう思って。
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