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第70話 志乃side
出て行った梓を追いかけようとすると「志乃さんっ!」と悲痛な声で名前を呼ばれた。そして後ろから夏目に抱き着かれ、前に進めなくなる。
「いや、いやですっ、行かないで···!」
ガクガクと震えている体に、夏目の状態が限界に近いことがわかって、体から力を抜いた。
「···わかった。夏目、飯を食ったらもう少し休め。」
「志乃さん、志乃さん···一人にしないで···怖いんです」
「わかってるよ。ちゃんとここにいる」
夏目を席に座らせ飯をテーブルに並べる。
箸を渡すと嬉しそうに笑って「いただきます」と言った。
「志乃さんのご飯、久しぶりです」
「そうだな。食えるだけでいいから無理すんなよ」
「はい」
夏目の様子を見ながら、梓のことを考える。
道はちゃんと覚えているのだろうか。何か危険な目に遭ってないだろうか。
「············」
後で親父に連絡をして、できるなら梓をここまで送ってもらおう。今は夏目から目を離すことは出来ない。
それから···暫くは夏目をここで預かる連絡と···。
仕事を含め、やる事が多くて頭の中を整理する。
「志乃さんの卵焼き好きです」
「···また作ってやるよ」
この先のことをしっかりと考えないと。
ぼーっとしていると「ご馳走様でした」と声が聞こえ、目の前の夏目を見る。
「美味しかったです!」
「よかった」
今後のことと夏目のことを、ちゃんと梓と話をしよう。
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