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第71話 梓side
親父さんのおかげで俺の一人暮らしのための引越しはすぐに終わった。
親父さんの貸してくれた部屋はすごく大きくて、俺一人で住むには広すぎる。
「ほ、本当にいいんですか···?」
「ああ。好きに使え。」
眞宮組の組員さんたちが運んできてくれた家具も新品同然ですごく綺麗だ。
「これ、お前のカードだ。欲しいものがあればこれで買え。金のことは気にしなくていい」
「えっ!まっ···え?!いやいや、流石にこれはっ」
「どうせお前の事だ、バイトでもするんだろ?ならその金は全部ちゃんと貯金しろ。必要なものはここから出せばいい。」
渡されたのは志乃から貰ったのとそっくりなカード。そういえば、志乃からもらったカードはリビングに置きっぱなしだ。
「食器とか、そういうのは持ってきてねえからな。どこか買い物行くなら連れて行ってやる。仕事があるから帰りは送れないが···」
「いやいや!俺、一人で行けます!最悪タクシー拾いますし!」
「そうか?···なら、とりあえず···俺からも話はしておくが、志乃に連絡はしておけ。それとあまりに遅い時間まで外にいるなら、帰るときは必ずタクシーを拾うこと。わかったか?無理そうなら連絡してこい。迎えに行くから」
「はい!意地でもタクシーを拾います!」
迎えに来てもらうなんてそんなの申し訳なさすぎる。
「教科書は志乃の家だな。···後で志乃に運ばせる。いいか?」
「いや、俺が取りに行きます」
「やめとけ。夏目がいる。この時期の夏目にお前をあまり近づかせたくない。お互いに影響されていい方向に向かう可能性が100パーセントでないからな。」
親父さんの言っていることの意味がわからなくて首を傾げる。親父さんはそんな俺を見てくすりと笑った。
「困ったことがあるならいつでも言え。」
「はい、ありがとうございます」
一般人でも、俺の父親のように最低な奴は沢山いる。
極道でも、親父さんのように優しい人はいる。
「気を付けて、羽目を外さない程度に楽しめよ」
帰っていく親父さんの背中は、大きかった。
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