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第72話

とりあえず、食器と食材、それから服を買いに行こうと、志乃の家から出てきた格好のまま、カードとスマホを持って外に出る。 ここら辺の土地があまり分からなくて、家を出たすぐ側でタクシーを拾い、大きなショッピングモールまで出た。 手始めに服を何着か見繕い、食器や包丁、フライパンなどを買いに百円ショップや、生活雑貨屋さんを歩き回った。 それから食材を買う頃には荷物が多くて少し困ったけれど、仕方が無い。 食材も買い終えて、またタクシーを拾い家まで帰る。どさりと床に荷物を下ろすと体が軽くなった気がして、組員さん達が運んでくれたソファーに倒れ込んだ。 *** ブーブーとバイブ音が聞こえる。 目を開けると部屋が真っ暗で驚いた。意識はまだ覚醒してはいないけれど、スマホを引っ張り出して耳に当てる。 「···はい」 「お前、帰ってこねえのか。親父にだけ話をして俺には無しか?アァ?」 最後の声が怖くて目を覚まし、一度耳からスマホを離して画面を見ると志乃の二文字。 「ご、ごめんなさい···電話しようと思ってたんだけど、寝ちゃってた···」 「そんなことは聞いてねえ。」 「···ごめん」 「チッ、親父に頼まれたから教科書は持って行ってやるけどな、てめぇの身勝手さはどうにかなんねぇのか糞ガキが」 怒った志乃の言葉は酷い。俺がどんな思いであの家を出たのかを知らないくせに、一方的に俺が悪いって言う。それが許せなくて「はあ!?」と声が出た。 「身勝手なのは志乃もだろ!俺だけが悪いわけじゃない!」 「何言ってんだお前」 「大体···夏目さんとそういう関係なら、俺が出て行って、志乃達にとっては嬉しいだろ!」 「そういう関係?···お前もしかして···」 「教科書はもういい!二度と電話してくんな!」 電話を切ってスマホをソファーに叩きつける。 ご飯を作って食べる気も失せて、風呂を沸かして入る。 「志乃の馬鹿野郎」 浴槽に鼻まで浸かりぶくぶくと息を吐き泡を出す。明日から学校で楽しみな筈なのに気分はただ下がりだ。 その日は結局、お風呂から上がってさっさと布団に入り眠ったのだった。

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