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第73話
朝起きて顔を洗い、歯を磨く。
昨日買ってきていた食パンにチーズを乗せてオーブンで焼く。チンっと音が鳴って取り出したパンの上にはトロトロに溶けたチーズがあって美味しそう。
「いただきます」
それを食べてから、また歯を磨き、学校の準備をする。カバンに荷物を詰め込んで、家を出て鍵を閉める。
「──よし。」
やる気を起こして、まだ道を覚えられていないからスマホで学校までの道を表示した。
大学に通う条件を、志乃から出されたけれど一人暮らしを始めたんだ、もうあれは忘れてもいいだろう。
「あ、お昼ご飯買って行かなきゃ」
コンビニを見つけて入り、美味しそうなパンを見つけ、コーヒー牛乳と一緒に買った。昨日もしたことだけど、会計で親父さんから貰ったカードを出すのにはやはり慣れない。
コンビニを出て学校に行く道に戻る。しばらく歩いてやっと大学につき正門を潜ろうとした。その時、後ろから飛びつかれて、驚いて振り返る。
「梓じゃん!久しぶり!」
「···びっくりしたぁ。西村さんか」
「眞宮志乃に捕まったって聞いてたけど、あれ本当なの?何で今ここにいんの?」
西村さんは同じ学科の女の子。派手な容姿をしていて、一見不良に見られがちだけど全くそんなことはなく、真面目で優しい子だ。
「捕まった···って言うか···」
「何何?あ、もしかしてあまり聞かない方がいい?ごめんね、話したくないならいいから!とりあえず休んでた時のノート見せてあげる!」
「ありがとう」
人懐っこい笑顔を見せた西村さんに連れられ、講義を受ける教室に向かう。
「そういえば、槙村 、休学するらしいよ。家庭の事情とか言ってた」
「槙村が?寂しくなるね」
槙村はうちの学科で、先輩にも人気の男子。西村さんと同じで見た目は派手だけれど、周りの空気を読んで場を和ませたり楽しくしてくれる人。
「私にわざわざ話してくれたんだ。そんなに親しいってわけでもなかったんだけどね」
「西村さんのことが好きだとか?」
「え、そんな事ないよ。だって槙村は全員に優しいもん。誰か一人だけにそれが向くことなんてなかなかないと思う。···あ、でも梓のことはすごく心配してたよ。眞宮志乃の噂が流れた時血相変えてたもん。梓は大丈夫なのかって」
「何で?俺も槙村とそんなに仲良くないよ。でも心配してくれてたのは嬉しいね。」
教室について後ろの席に座る。
隣に座った西村さんは「はいこれ、写真撮って」とノートを見せてくれる。
「テスト出すよって先生が言ってたところは赤のアンダーライン引いてるよ」
「ありがとう」
志乃から渡されたスマホでノートを撮影する。そうしている間に教授がやって来て、講義が始まった。
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