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第74話 志乃side
朝、体を起こし隣で眠る夏目の髪を撫でる。
また、眠れなかった。
慣れているはずの夏目の体温が居心地を悪くしているのだと思う。煙草を吸いにベランダに出て欠伸をしながら紫煙を揺らす。
「···ちゃんと学校行けてんのか···?」
一度眠ればなかなか起きないし、飯は作れない梓。俺と再開するまでは一人暮らしをしていたらしいが、どうやって生きていたのかが謎に感じる程にあいつは生活力がないと思う。
煙草を吸い終えて部屋に入る。珈琲をいれてテレビを点けた。そんな時俺の名前を呼ぶ夏目の声に気付いて、寝室に行く。
「夏目?」
「···ぁ、あ···ねえ、ちゃんが···、姉ちゃんが、落ちた···っ」
「ここには居ない。」
「ぅ···志乃さん···っ!」
「夏目、ちゃんと俺を見ろ。」
虚ろな瞳でどこかを見る夏目の肩を掴む。
「斗真!!」
「っ!」
やっと目が合った。グラグラと揺れて次第に目から水滴が零れ落ちる。
「ね、姉ちゃんが、いたんです···」
「ああ。」
「姉ちゃんが···倒れてて、それで···」
「もういい。落ち着け、深呼吸しろ」
夏目を抱き締めるとガタガタと震えていて、苦しそうだ。
「よしよし」
「志乃さん···、志乃さん···っ」
「大丈夫、大丈夫だ」
「···っ、はぁ。···志乃さん、ごめんなさい···」
「気にしなくていい。珈琲飲むか?リビングでゆっくり過ごそう」
夏目の手を掴み寝室から出る。
顔を洗い歯を磨いた夏目に珈琲を入れてやると、さっきまでの虚ろな表情とは違い、柔らかい表情で安心する。
「夏目、もう明日だ。明日、墓参りに行こう。」
「ん···、姉ちゃんのですか」
「ああ。」
頷くと夏目も頷いて、珈琲を一口、口に含む。
「あの···梓さんは、大丈夫なんですか?」
「···ああ、多分な。親父にも会いに行ったらしい。昨日電話をして怒られたけどな」
「怒られた?どうして?」
「どうやら俺が悪いらしい。」
理由は検討がついている。
きっと梓は出ていく日の夜中に、俺と夏目がセックスをしているのを見たんだろう。そして俺と夏目が恋人だとか、そういう勘違いをしたのだと思う。
記憶を思い出したことでタイミングも良かった。そして梓は出て行った。
そんな理由を夏目に話せるわけがない。
「志乃さんが?」
「ああ。まあ別にそのことは気にしなくていい。」
気にさせないように話を変えようとするけれど、上手く変えられない。
「志乃さん、天気がいいですね」
「あ、そうだな···」
「そういえば、俺、いつまでもここにいたら迷惑ですよね。そろそろ出て行きます」
「駄目だ。せめて明日が終わってからだ。···外に行きたいなら今から買い物に行こう。」
ここから出ていこうとしているように見えて、すかさず夏目を止める。
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