78 / 292
第78話
「え?言ってなかったっけ。俺の家このマンションだよ。」
「ええ!?」
ご飯を食べて「今日は泊まられますか?」と聞くとキョトンとしながら「何で?」と聞いてきた立岡さん。
お酒のことを言うと、このマンションに住んでいると聞かされて驚いた。
「聞いてない!」
「あ、そう?なら今言った。ていうか親父さんから聞いてない?ここは眞宮組が持ってるマンションだから、組員が結構住んでるよ。」
「眞宮組が持ってるっていうのは知ってたけど···」
「うん。ほとんど寮みたいな感じだよ。」
お酒を飲みながら話をする立岡さん。
「だから、何かあったら皆君を守りに来る。なんてったって君は眞宮組組長の甥だから。」
「···そんなのいらない。俺はただの大学生」
「俺達には君が眞宮組組長の甥で、若頭の従兄弟であることが何よりも重要だ。それ以外はどうでもいい。」
「···それだと俺自身はどうでもいいみたいですね」
「ははっ!!そうだよ。君自身はどうでもいい。君の肩書きが重要なだけだ。」
立岡さんはケラケラと笑ってお酒を煽る。その言葉は俺を驚かせるには十分で、椅子から立ち上がり目を見開いて立岡さんを見る。
「ん?どうした?」
「···俺は、俺自身は、どうでもいい?」
「んー?そうだよ。俺が君の面倒を見るのは志乃···眞宮組若頭からの命令だ。それをすれば俺に金が入る。つまり、金の為だよ。」
金の為。俺と仲良くするだけで金が貰えるなんて、自分は面倒な人間ではないと思っているから、その仕事がどれだけ楽なんだとむしろ呆れる。
「その仕事ってどれだけお金がもらえるの?」
「さあ?後で志乃が決めるからね。」
「安いかな」
「いや、護衛も兼ねてるから大分高いと思うけど」
「ふーん。そんな価値ないのにね」
何だかもう嫌になる。考えることをやめて、溜息を吐いた。
「俺、風呂入って寝ます。明日も学校あるから」
「わかった。何時に家出る?送るよ」
「···10時くらいです。」
「うん。じゃあそれ位にここに来るね。」
最後にぐいっとお酒を飲んだ立岡さん。空き缶を洗い、潰してゴミ箱に入れる。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
立岡さんが帰っていく。1人になるのは寂しいはずなのに、引き止めたくはない。だってこの人は金だけで動く人だ。信用なんてできるわけがない。
「···志乃」
夏目さんは狡い。過去を持ち出して志乃を引き止める。あの人は金だけで動く人じゃない。誰よりも信用できて、甘やかせてくれる人だ。
俺には、そんな人は居ない。
夏目さんは狡い。狡い。
「···志乃」
志乃を、夏目さんに渡したくない。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!