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第79話 志乃side

里緒の墓参りに行くと、夏目と話をしたのは昨日。その時はまだ表情のあった夏目が、今はどこかに表情を落としてきたようで、抜け殻のようにソファーに倒れて動こうとしない。 「夏目」 「············」 名前を呼ぶと目だけが動く。ゆっくり瞬きをして俺と目を合わせ、それから全てがどうでもいいと言っているかのように、またどこか空中に目をやる。 「昨日話しただろ。墓参りに行こう」 「············」 床に座り込み、夏目の肩を軽く叩く。 その振動で、夏目の目に溜まっていた涙が落ちていった。 「···ね、姉ちゃん···の、墓参り···」 「ああ。行ってやらないと寂しいって里緒が泣くぞ」 「···泣くの、姉ちゃんが···?」 「そうだ。斗真に会いたいって、きっと思ってる」 涙で濡れた髪を撫でる。目が合って、小さく笑ってやると夏目は俺に手を伸ばして抱き着いてきた。夏目の背中に手を回しなるべく優しく撫でてやると、そのまま腕の力を強くして俺から離れようとしない。 「会いに行こう。」 「···連れて、行って」 その言葉にこくりと頷き、夏目を抱いたまま立ち上がる。 「その前に服を着替えよう。その格好じゃ寒い。」 「···うん」 今の夏目はまだマシな方だ。 少し前まで、この日が来ると泣き叫んでは物にあたって色んな物や人を傷つけていた。 「里緒は何色が好きだった?」 「···黄色とピンク」 「ならその色の花を買って行こう。喜んでくれる」 服を着替える夏目の頭をポンポンと撫でる。 大丈夫。このまま、この安定した状態のまま今日が終わればいい。 「行こう」 靴を履いた夏目の手を掴み、外に出る。 おずおずと足を前に出し歩き出した夏目に少し安心した。

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