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第81話
眠る夏目を家のベッドまで運び、ゆっくりと寝かせてやる。
夏目が起きたらまずはあそこまで行けたことを褒めてやらないと。
リビングに移動して煙草を吸う。最近は少し、本数が増えた。そろそろ買いに行かないと無くなっちまう。···帰りに買ってこればよかったか。いやいや、今は夏目が最優先だ。
夏目はいつも俺に縋ってくる。
決して、親父や、自分の親には見せない姿を、俺には見せてくる。
きっと、年が近い事も、高校の頃から仲がいいということもあるからだろう。
その点、梓はどうだろう。
あいつは記憶が戻った時も、喚くことも泣くこともなく、ただそれを過去として受け入れて、俺に縋ることも無かった。むしろ1人で飛び立っていった。
夏目のように、誰かが自殺したり殺されたりした訳では無いから、過去を受け入れやすかったのだろうか。いや、けれど虐待を受けていた子供はそれがトラウマになることが多い。···もしかすると、まだそのトラウマに気が付いていないのか?
もしそうなら、ある日梓がそのトラウマに気付いてしまった時、梓は夏目のように不安定になってしまうのかもしれない。そうなったら俺は···どうしてやるのが正解なのだろう。
梓と一緒にいた時、一度強姦紛いなことをしている。それで恐怖を植え付けてしまった。もし過去に同じような出来事があったのなら、記憶を思い出した今、俺とはもう二度と会いたくないのかもしれない。
梓と一緒にいるべきか、今のように離れているべきか。
煙草を吸いながら色々なシチュエーションを考える。
夏目にも、梓にも、過去の事で傷ついて欲しくはない。
「···はぁ」
今は夏目の事もあって、本来俺がするべき仕事を全くしていない。梓と夏目の件も加え、後から倍になって返ってくるであろう仕事のことを考えると、頭が痛くなった。
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