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第82話

昼の3時、夏目が起きてきて、ソファーに座っていた俺の隣に腰を下ろす。 「志乃さん、ごめんなさい···俺···」 「ちゃんと、あそこまで行けて偉かったな。里緒の好きな色も教えてくれただろ。お前が里緒にあげる花を自分で選んでいたし、すごいよ」 「···っ」 「だから謝るな。お前はすごく頑張ったよ。」 抱きしめてやると静かに涙を流し、俺の服を濡らす。まだまだ夏目の傷は癒えることは無い。けれどこれでまた1年は、安定した状態で居られるはずだ。 「志乃さん···ありがとう」 「ああ」 謝られるより、ずっと気分がいい。 顔を上げた夏目にキスをすると、目を細めて笑う。 少しでも夏目を待つ未来が明るければいい。そう心の中で祈った。 *** その日の夜、夏目はもう眠っていて、俺は親父から渡された仕事を家でこなしていた。 「···疲れた···」 不意に本音が漏れて、首をバキバキと鳴らす。 天井を向くと深い溜息が漏れて、そのタイミングで着信を知らせる音が鳴る。 スマホを手に取り画面に出た立岡の文字を確認して、電話に出た。 「はい」 「お疲れ。夏目はどう?」 「ああ。まあ···今は寝てる。」 「そうか。···梓君の事だけど、俺はいつまであの子の面倒見ればいいわけ?夏目のことが落ち着いたならちゃんと二人で話し合うべきだと思うけど。」 俺だってそうしたい。けれど梓はその時間を作ってはくれないだろう。なんせ酷い勘違いをしているんだから。 「あ、梓君に夏目の事話したよ。どうして志乃に縋るのかね。そしたら梓君、なんて言ったと思う?」 「···さあ」 「ふふっ。まあ答えは言わないけどね!ていうか俺に休暇をちょうだいよ。もう何日も働いてるんですけど。」 「今は殆ど休んでる状態だろ。」 「違う!海外行きたい。知ってる?キューバの街並みは最高だ」 それから俺にとってはどうでもいいキューバについての豆知識を話し出す立岡。「でね」と続ける立岡の言葉を遮り「梓と、」と声を出す。 「梓と話をする。上手くいったらお前には1ヶ月休みをやるよ。キューバでもどこでも行ってこい」 「本当!?絶対上手くやってくれ。」 「ああ。じゃあな」 電話を切って息を吐く。 夏目が元の状態に戻ったら、すぐにでも梓に会いに行こう。そう決めて仕事を再開した。

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