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第87話
志乃が居なくなったら、志乃が誰かのものになったら、俺は本当に···誰を頼ればいいのかわからなくなる。
本当に、1人ぼっちになる。
「···嫌だ、志乃が···志乃が誰かのものになるなんて、絶対嫌だ」
「梓?」
不安で不安でいっぱいになる。1人になったら、俺は···
「夏目さんなんて嫌い。」
不安が言葉になって零れる。ただ素直に1人が寂しいなんて言えなくて、そんな言葉しか出てこない。
「夏目さんには両親だっているんでしょ」
「···ああ、そうだな」
「縋れる人は他にもいるのに、何で」
「···夏目は両親に恨まれてると勘違いしてる。けれどそれだけの大きな不幸から起こった勘違いはなかなか解けない」
「そんなの···そんなの夏目さん1人の問題じゃんか!」
何をこんなにムキになっているんだろう。
俺はただ、1人になりたくないだけだ。けれどそれなら、学校の友達だっている。
「その問題を、1人で解決出来ないから手伝ってるんだ」
「···その手伝いが恋人になること?何それ。可笑しすぎて笑えてくる」
「梓、怒るぞ」
「怒ればいいだろ!前みたいに怒って俺のこと犯すでも何でもすれば!?」
ガッと、音がした。
骨と骨が当たる音、それから大分昔に味わったことのある痛みを頬に感じる。
「もうそれ以上話すな」
「···っ」
今、気付いた。
俺って···もしかすると、志乃が好きなんだ。
目からポロポロと流れる涙は、頬の痛みからじゃない。ただの不安、それから嫉妬。
「殴って悪かった。冷やして、それから少し寝ろ。疲れてるんだよ、お前」
「···うん」
でも、その気持ちを吐露することはできない。
だって、志乃は夏目さんのものらしいから。
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