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第89話 志乃side

俺の腕の中で眠る梓。雨の音を異様に怖がり、その音を自分の声で消そうとしたのか、さっきまで大声をあげながら泣いていた。 周りが見えなくなって、俺のこともわからずに怖がっていた姿は、もしかしたら夏目よりも危険な状態なのかもしれない。 梓には夏目のことでずっと悩ませてしまっていたんだ、仕方が無い。 目元は赤くなり、触れると熱を持っていて申し訳なくなる。 確かに、夏目の両親は生きていて、里緒を失ったからと言って夏目を責めることはしていない。むしろ2人だけの状況にしてしまったことを悔やんでいた程だ。夏目は勝手に両親が自身を恨んでいると思っていて、それは夏目の問題だ。梓の言ったことは間違いではない。 けれど、だからといってまるで夏目が悪いことをしているような、そんな言葉は言って欲しくない。思わず殴ってしまった頬は、未だ少し赤くてもしかしたら痣になるかもしれない。 頬を撫でて、梓を抱きしめる。 もぞっと動いた梓。顔を覗くと穏やかな顔で眠っていて、夏目の事を考えながら、梓の唇に自らのそれを合わせる。 どうしてそんな行動をとったのかはわからない。 けれどさっき、俺が夏目のものになったと言って泣いていた梓にグラグラと気持ちが揺れた。そのせいかもしれない。 前までは遠慮もなく、梓に触れていられたのに、今は何故かそれができない。 「ん···」 小さく声を漏らした梓をまた抱きしめ、目を閉じる。 申し訳ないという気持ちが胸の中を支配する。この気持ちをスッキリと晴らしたい。けれど、俺だけがスッキリして罪悪感も何も感じないのはおかしいと思う。 「梓···」 どういう行動を取れば、梓も夏目も苦しめなくて済むのかがわからずに、梓を抱きしめる力を強くした。

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