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第90話

少し眠って、目を覚ますと梓がまだ俺の腕の中で眠っていた。 さっきより顔色が良くなっていると思う。頬を撫でると口角が少し緩くなり、可愛らしい。 じっと顔を見ていると、梓がゆっくり目を開き、ボーッと俺を見た。 「···志乃」 「ああ、起きたのか」 「···雨、止んだの···?」 「多分まだ止んでない。怖いならまだ少し寝てろ」 「···起きる。でも、テレビ点けててほしい」 のそっと起き上がった梓。眉間に皺を寄せながらリビングに出て、テレビをつけソファーに座る。 「今日の授業、試験の事とか言われたのかな···」 「友達いるんだろ。そいつらに聞けばわかるじゃねえか」 「そうなんだけど···なんか、恥ずかしいもん。あの眞宮志乃に抱っこされて帰ってたんだよ!?」 「周りから見てもお前は体調が悪かったと思うし、恥ずかしくもなんともねえよ」 俺はテーブルに置いてあったパソコンを開き、ずっと手付かずだった仕事を始める。 「志乃って勉強できるの?」 「馬鹿にすんな。できる」 「嘘。そんなに怖い見た目してるのに?」 「学力と見た目は関係ない。金髪で見た目が派手な野郎が学年一位だとおかしいと思うのか?」 「ううん。凄いなって思う」 梓は俺の前に座り、「仕事?」と首を傾げて聞いてくる。それはさっき俺に向かって叫んだことや、泣いていたことを、まるですべて忘れているみたいに。 「ああ。ずっとしてなかったからな。そろそろ親父が文句言ってくる」 「それ、文句じゃなくて普通に怒ってるんだと思うけど?」 「どっちでもいい。」 梓はどうやら暇でかまって欲しいようだ。 目の前でテレビの音に合わせユラユラと揺れてみたり、じーっとこちらを見たり。仕方なく手を止めて梓を見ると、少し嬉しそうに目が細められる。 「暇なのか」 「うん、暇」 「お前、本好きだっただろ。読んでればいい」 「あ、そうだった。部屋入るね」 「今更そんなこと言わなくていい。好きにしろ」 そう言うと「ありがとう」と言って、俺の書斎に向かう。 少しして部屋から出てきた梓はもう本の世界に夢中になったようで、ソファーに座り静かに読書をしていた。

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