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第92話
志乃は急いで仕事道具を片付け、俺は読んでいた志乃の本を借りて、一緒に家を出る。途端雨の音が聞こえて、心臓の動きが速くなったけれど、気付かないふりをした。
「ちょっと急ぐ」
「うん」
車に乗り、俺の家までそれを飛ばして、マンションに着くと俺を部屋まで見送ってくれた。
瞬間、ぽつんと独りになった。
何の音もしない部屋のせいで、雨の音が大きく聞こえる。
急いでテレビをつけて音量を大きくした。
寝室から持ってきた毛布か体を包み、ソファーに丸くなる。
「···不安定になるって分かってるなら···何か解決策を考えたらいいのに。」
俺の大好きな時間を奪った夏目さんが憎らしい。多分、志乃のことが好きだから、志乃を奪った夏目さんが、恨めしい。
「あー!!ダメ!!」
ついつい暗い感情が湧き出て、夏目さんばかりを責めてしまう。夏目さんは何も悪くないのに。そんな自分が嫌になって、ボーッとテレビを眺め、考えることをやめた。
「···独りは、嫌いなのに。」
あれだけ、志乃に監禁されていた頃は早く家に帰って一人暮らしに戻りたかったのに、今じゃ孤独を感じて、志乃から遠くなったような気がして嫌い。
初めから、あの家を出ていかなければよかったと、少し後悔しているほど。
だって、そうすれば夏目さんと志乃が恋人同士だとか、そんな仲にならなかったかもしれないのに。
「···どうすればいいの」
こんな気持ちになったことがないから、どうすればいいのかが全くわからない。
とりあえず、雨が止んだら、ちゃんと学校に行こう。
整理のつかない心と頭を無視するように、さっきまで読んでいた本の続きを読むことにした。
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