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第94話

夏目がやっと落ち着きを取り戻したのは、里緒の命日から3日経った後だった。 いつもの調子に戻り、仕事もこなしている。これならもう問題はいらないだろう。 けれど、梓はどうだろう。 この前の雨の日から、なかなか止むことのない雨粒は今日も振り続けている。 立岡に連絡をするも、学校には行ってないらしく、ご飯は自分で作りたいと言うからと、あまり会えていないらしい。 「志乃さん、ご飯できました!」 「ありがとう」 夏目は俺の家にやって来ていて、晩飯を作ってくれる。俺は飯も作れるし、掃除もできるので例えば今夏目がここにいなくても、ちゃんとした生活が送れる。 なら、梓は? 飯を作ることは愚か、今は雨だと事もある。様子を見に行ってやらないといけないんじゃないか。 「夏目、悪い。飯食ったら梓の様子を見に行ってくる。」 「···梓さんの、ですか」 「ああ。あいつは雨がダメなんだ。飯も作れないし、今頃倒れてるかもしれない。」 「···志乃さん」 夏目がじっと俺を見る。 見つめ返すとゆっくりと口を開いた。 「梓さんと俺、どっちが好きですか」 「······何でだ」 「志乃さんは、もう···俺のものですよね···?梓さんをそんなに大切にするから、違うのかなって···」 「梓は従兄弟だ。大切にするに決まってるだろ。」 おかしな事を言う夏目に、少し強い口調でそう言うと困ったように「そうですよね」と言い、笑う。 「送っていきます。」 「···ありがとう」 少しずつ、夏目が崩れていっているような気がする。立ち直ったばかりだから、そう感じるだけかもしれないけれど。 「何か持っていきますか?おかず残ってますし···」 「そうだな。」 どうか、何事もなく無事でいてくれたらいい。 そう祈り、そうそうに飯を平らげる俺を、夏目が悲しげな表情で見ていたことを、俺は知らないでいた。

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