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第95話

飯を食べ終え、夏目の作ったおかずを持って、夏目の運転する車で梓の家へ向かう。 マンションの前に着くと立岡が丁度どこからが帰ってきたらしく、エントランスにいた。 「あれ、志乃に夏目。何してんの?」 「梓の様子を見に来た。」 「鍵あるの?インターホン鳴らしてもなかなか出てきてくれないよ。会話はできるけどね」 チッと舌を鳴らし、マンションに入って梓の部屋まで向かう。何故か立岡も付いてきて夏目にちょっかいを掛けていた。 梓の部屋の前についてインターホンを鳴らす。少し待ってると「はい」と掠れた小さな声が機械から聞こえて来た。 「俺だ。」 「···志乃?」 「飯、持ってきた。開けろ」 「···ちょっと待ってて」 プツリと通話は切れて、立岡が「嘘、開けてくれるの!?」と驚いている。 ガチャ、と音がなりゆっくりとドアが開いた。そこに立っていたのは毛布に包まり、目の下に隈を作った明らかに様子のおかしい梓。 「ありがとう」 「···ちゃんと寝てるか?」 「···ご飯、何?」 俺の質問を無視した梓は、視線を俺から後ろにずらす。その目が夏目を捉えた時、梓の顔色は真っ青になった。 「おい、顔色が悪すぎる。大丈夫か」 「っ、え···っと、何で···いるの?」 「夏目はここまで送ってくれた。立岡は下でたまたま会った。お前の様子が気になったから来たんだ。部屋に上げてくれ」 「···ごめん、散らかってるから無理」 「いいから。」 強引にドアを開け、中に入る。梓の腕を掴みリビングまで行くと、部屋の荒れように息を飲んだ。 「ぁ、ちょっ、見ないで!」 「何してたんだ、これ」 割れた皿が床に散らばって、所々に赤い斑点が落ちている。梓の手を見ると切り傷がいくつもあった。教科書と思われる本も破かれたり、そこら中に投げ置かれている。カーテンは閉め切っていて、空気も悪い。 「か、片付けるから!離して!」 「何してたんだ!」 つい、梓に向かって怒鳴ってしまう。 途端、梓は泣き出して床に崩れるように座り込んだ。 「雨、雨が···止まなくて、うるさかったから、紛らわそうとして···それで、えっと···ぁ、ぅ···、わ、わかんない···っ」 後から入ってきた夏目と立岡も部屋の惨状に驚いている。 「怒鳴って悪かった。とりあえず手当しよう。怪我してる」 「っ、要らないっ!」 「なら飯食って少し寝ろ。一緒にいるから」 「やだっ!寝たら、夢見るから···っ、怖いから嫌だっ!」 俺の手を振り払い、目を閉じて両手で耳を塞いだ梓。 「志乃さん、多分···今は触らないであげた方がいいと思います」 夏目が梓を見て戸惑いながらもそう言う。 「夏目悪いけど部屋を片付けるから、様子を見ててくれ」 「はい」 「立岡、お前は冴島に連絡して手当させろ。」 「わかったよ」 ずっと、放置していたことをひどく後悔した。

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