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第98話
「何でこうなるまで放っていた?ずっと何していたんだ」
「···夏目を見てた。梓は···まだ大丈夫だと思って」
「夏目君のことは知ってる。けどこの子には夏目君以上に、頼れる人が居ないのはお前も知ってるだろう。」
「ああ。知ってた。俺が悪かった」
手当をされた手を見ると申し訳なさしか感じない。
「しばらく目を離すな。どうしてもお前が外に出ないといけない時は連絡しろ。俺が見ておく」
「助かる。ありがとう」
「···夏目君はどうなんだ。」
梓を放っておいたくせに、夏目とは恋人同士になり、今じゃとても近い距離にいるなんて、冴島が知れば怒るに決まっている。
けれど、隠すつもりはなかったので正直に話をすると、案の定鬼の形相をした。
「恋人ってどういうことだ。お前は自分を求める相手がいれば誰にでもひょいひょい与えてやるのか」
「···その時は、それが一番だと思ったんだ。」
「お前の考えは根本的に間違ってる。それが一番だからって、それは一時的に夏目君を満足させるだけだ。彼の不安は解消されることはないし、そのおかげで問題が増えるって考えなかったのか!?」
冴島が少し大きい声を出したから、梓が身じろいで俺の胸に顔をトン、とつける。
「考えてなかった。梓もわかってくれると思ってた。こうなるとは···その時は思いもしなかった」
梓の柔らかい髪を撫でる。
俺が傷つけたも同然なのに、俺に甘える梓。
それは俺しか頼る人がいないからだと、わかっている。
「まずは好きか嫌いかじゃなくて、どちらが必要で、どちらが不要なのかを考えろ。」
「ああ」
「夏目君と立岡のところに行ってくる。梓君の目が覚めて何かしたいようなら、好きにさせてやれ。ただ傷は付けるな。」
冴島はそう言い残し、部屋から出ていく。
二人きりの部屋で、冴島に言われた言葉通り、何が必要なのかを考えた。
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