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第108話 梓side
ご飯を作る志乃を眺める。
フライパンを持つ手。伸びる腕には綺麗な筋肉がついていて、かぶりつきたくなる。
「志乃」
「あ?」
「···キスマーク、付けたい」
「···誰に」
「志乃に」
ハッキリとそう言えば困ったように笑って、けれどすぐに「いいよ」って返事をくれた。
けれど今は危ないからダメって言われて、仕方なく椅子に座って待つ。
「出来た」
「キスしていい?」
「ん」
志乃に近づいて、背伸びをしてキスをする。
背伸びをしても届きやしないから、志乃が背中を屈めてくれる。
そして、腰に手が添えられてそのまま、志乃の首にキスマークをつけた。
「好き」
「知ってる」
「ねえ···これからどうするつもりなの?夏目さんと、俺のこと。」
「···ちゃんと考えてるから、気にしなくていい。ほら、飯食うぞ」
上手く話を逸らされた感じがする。
けれどご飯が冷えてしまうのは嫌だったから、大人しく志乃の言うことを聞いた。
「志乃の好きな食べ物って何?」
「あー···果物は基本何でも好きだな」
「そうなの?なんか···意外だね。もっと渋いのが好きだと思ってた」
「そうか?甘すぎるのは嫌だけどな」
志乃のことをまた一つ知れて嬉しい。
「志乃」
「あ?」
「···俺ね、志乃に捨てられるのは嫌だ」
「捨てたりなんかしない。絶対に」
「約束だよ」
「ああ」
その約束は俺が生きている間はずっと果たしていて欲しい。
その約束が危うくなる未来が来るなんて、思っていなかった。
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