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第109話
雨が上がり、晴天が続いている。
志乃はそろそろ仕事に行かないといけないからと、俺と家を出て行って、俺はまた大学に通い始め、平凡な日々を過ごしている。
立岡さんは今、休暇をとってるらしくて代わりに送り迎えをしてくれるのは眞宮組の幹部である速水さんという人。
外面も内面も付き合いやすい人で、いつも車の運転をしながら楽しい話をしてくれる。
「梓くんは何で大学に行こうと思ったの?」
「何もしたいことがなかったのと···何か一つでも資格を持ってたら働けるかなって思ったのと、育ててくれた施設の人たち安心させたかったからです。」
「沢山考えてるんだね。考えすぎると頭おかしくならない?」
「え、いや···そんなに考えてない、です」
「あ、そう?」
大学からの帰宅途中。そんな会話をしていると突然速水さんが俺の顔にバッグを押し付けた。
「顔隠して伏せろ。そこにしゃがみこめ」
「えっ?」
「早く」
明らかにさっきとは様子が違う。逆らってはいけないとわかって押し付けられたバッグで顔を隠し、なるべく体を伏せる。
「そのまま若に電話、スピーカーにして」
「はい」
急いで志乃に電話をしてスピーカーに変える。
「どうした」
志乃の声が聞こえると同時、速水さんが声を上げた。
「後ろから3台!!どっかに誘導されてるみたいや!!」
「撒け」
「梓くんが怪我しても文句言わんでよ!」
口調が変わった速水さん。顔を少しあげて速水さんをみると目がギラギラとしている。
「梓、聞こえるか?」
「あ、う、うん」
「今から車が馬鹿みたいに動くから、顔とかぶつけねえ様に気を付けろ。」
「わ、わかっ───!?」
ぐわんっとすごい力が体にかかる。
背中を思い切りぶつけて乾いた息を吐く。
「1台消えた!!応援出して!前から突っ込まれたら逃げきれん!」
「もう出してる。応援がつくまで逃げ切れ。」
ぐわんぐわん動く車に吐き気がする。
「あ、あかん!前から来た!」
「チッ···おい、死んでも梓は守れ」
「そんなんわかってる」
車が音を立てて勢いよく止まる。
かと思えば窓ガラスが割られてそこから伸びてきた手がドアのロックを解除し、ドアを開けて俺を引きずり出した。
辺りは暗く、人気が無い。
誘導されてるって、この人がいない場所にだったんだって今理解した。
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