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第114話

「梓?···っ!梓!やめろ!」 志乃の声が聞こえて、振り下ろしていた手を止める。荒い呼吸のまま志乃を見ると驚いた顔をしていて、俺を夏目さんの上から退かし、夏目さんに声を掛けている。 「夏目」 「っ、志乃さん···」 俺の手は夏目さんの血で汚れていて、夏目さんの顔は夏目さん自身の血で汚れている。 「梓、そこから動くな。じっとしてろ。」 返事も出来ず呆然としながら志乃を見る。 志乃は夏目さんを連れて部屋から出て行くから、”行かないで”と伝えたかったのに、どうしてもその言葉が出てこない。 自分の首元に触れると、一瞬呼吸が止まる。それがまた、俺の恐怖心を煽って、動くなと言われたのにも関わらず、立ち上がって部屋を出て、廊下を宛もなく歩いた。 「梓?」 声を掛けられて前を見ると親父さんがいて、腕を掴まれ親父さんの部屋に連れていかれる。 「手、血がついてる。」 「これは、俺のじゃなくて···な、夏目、さんの···」 「夏目の?何だ、喧嘩でもしたか?···まあ、それより、怖い思いをさせて悪かった。疲れただろ。少し休め。───愛美!」 親父さんの声で、奥のドアが開き綺麗な女の人が現れた。 「休ませてやってくれ。怪我をしてるようなら手当も」 「わかったわ。ところでこの子は···?」 「梓だ。梓、俺の妻で志乃の母親の愛美だ。」 綺麗な人たなぁ。と眺めていると手を掴まれて驚いた。 「あら、梓くんね!私ずっと貴方に会いたかったの!とりあえず少し休みましょうね。あ、この手は洗うのよ。ほら、こっちに来なさい」 連れられた部屋。中にある洗面台で手を洗って、傷がないか見られると用意された布団に寝転ばされた。 「少し休んで、ここは安全だから大丈夫よ」 そう言われ、お腹辺りをポンポンと優しく叩かれると眠たくなかったのに眠気が襲ってきて、重たくなる瞼に逆らわずに目を閉じた。

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