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第115話

バタバタとうるさい音が聞こえて、目を開ける。 愛美さんはすぐそばに居て「うるさいわねえ」とドアに向かって呟いた。 「あの···」 「起きちゃった?ごめんなさいね、うちのバカ息子が暴れてるのよ。」 「バカ息子···志乃が?」 「ええ。こっちには通さないつもりなんだけど···この感じじゃ無理かもしれないわね。」 愛美さんが言った通り、暫くするとドアが開いた。そこには志乃が立っているのに、愛美さんが俺を庇うように前に立つから見えない。 「梓くんをいじめに来たの?それとも護りに?」 「···理由を聞きに来た。いじめはしない」 「ならそんな怒った顔しないでくれる?」 「···してない。元からこの顔だ」 「はあ?私の産んだ志乃はもっと可愛かったわ。ふざけた面してないで笑いなさいよ。」 愛美さんが志乃の顔に手を伸ばし、まるで粘土を捏ねるみたいに頬をグリグリと押している。 「やめろよ」 「あら、やっと普通の顔になったわ。」 「死ねクソババア」 「あんた私によくそれを言うけど、ボキャブラリーが少ない馬鹿だと思われるわよ」 愛美さんといる志乃は子供みたいに見える。それが新鮮で面白い。 「理由を聞くんでしょ?優しくよ」 「わかってる」 愛美さんが俺の前から退いて、志乃がすぐそばに来た。きっとさっき夏目さんを殴った理由を聞いてくるんだろう。俺は悪くないと思うけど、志乃が同意してくれるとは限らない。 「なんで夏目を殴った。」 「···首を絞められて、父親の顔が浮かんだんだ。怖くて、やり返さなきゃやられると思った。」 「それにしてはやり過ぎだ。」 「殺されると思ったんだもん。」 「夏目も、俺たちのこの関係に対して不安を持ってるのはお前だって理解してるだろう。」 どうしてか、俺が責められているように感じる。俺が夏目さんを殴ったことが悪いなら、俺の首を絞めた夏目さんも悪いはずなのに。 「俺が悪いの?」 「そうとは言ってない。ただやりすぎだ。」 「それは、夏目さんもでしょ!?俺は別に何もしてないのに!急に首を絞めてきたんだよ!志乃から離れろって!俺のものだって!」 そう怒鳴りつけると志乃は困った顔をして、一度、深く息を吐く。 「夏目がお前に俺から離れろって言って、首を絞めた。だからお前はやり返した、それで合ってるか?」 「うん」 「···なら、暫く距離をおこう。さっきの帰りでの件も踏まえて、お前と俺は暫く離れていた方がいい。」 「···それで、夏目さんとは一緒にいるの?」 「仕事だからな」 その言い方に腹が立って、立ち上がる。 「俺は悪くないっ!!」 「梓、落ち着け」 「嫌いだ!!夏目さんも、志乃も!!もう二度と会わない!!夏目さんの望みが叶ってよかったね!!」 志乃を突き飛ばし、部屋から出る。 親父さんと、愛美さんが止める言葉を無視して、眞宮組から飛び出し急いで家に帰った。

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