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第117話

部屋に戻り、床についている血痕を見て、確かに梓はしっかりと成長してるよな。と思いながら掃除した。 出ていった梓を迎えに行くこともできずに、ただソファーに座っている。 さっきあんな事があったんだ、今すぐ誰かに梓の元に向かわせたいが、適任が居ない。 相馬はまだ仕事が残っているし、速水は怪我人だ。夏目を会わせるわけにはいかないし、なら、残るは神崎。けれど神崎は全く以て、そういう仕事に向いていない。 「···あ、冴島」 けれどあいつは組員じゃねえしなぁ。 悩んだ結果、梓のメンタル部分が無事かどうかを確認してもらうために、電話をした。 用件を話すと深い溜息が聞こえてくる。 「お前はまた梓君を傷つけたのか?梓君も順調に回復してたんだろうが」 「ああ、悪い」 「また夏目君のせいか。いい加減にしないと俺がお前から梓君を引き離すから。」 冴島はすぐに梓のところに向かってくれるらしい。 「とにかくお前は何より先に夏目君のことをどうにかしろよ!!」 冴島にしては珍しく、怒鳴るようにそう言ってきた。それに「わかってる」と返事をして電話を切る。 どちらかを護るためには、愛するためには、どちらかを手放さなければならない。 俺にとっての唯一無二は、梓だと分かっている。だから、早く迎えに行けるように頭を動かし、行動に出た。

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