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第119話

ふんわり、いい匂いが鼻腔を掠める。 目を開けると頭は痛いし、吐き気はするしで最悪の状態。そういえばさっきお酒を飲んだなぁとその状態に納得した。 このいい匂いはなんだろう。頭を押さえながら体を起こし、キッチンの方を見ると冴島さんがいて、眠る前に冴島さんがここに来ていたことを思い出した。 ぼーっと見ていると視線を感じたのか、冴島さんがこちらを見て、目が合うと優しく微笑む。 「起きたんだね。お水いる?」 「···欲しい、です」 コップにお水を入れて持ってきてくれた冴島さん。どうやらご飯を作っていたらしい。 「ごめんね、勝手に冷蔵庫漁って」 「いえ···何も入ってなかったでしょう···?」 「まあでもとりあえずご飯は出来たし、また後で買出しに行ってもらうから大丈夫。」 「行ってもらう···?誰に?」 「ん?眞宮組の組員にだよ」 どうやら冴島さんも立岡さんと同じ、組員さんを使うらしい。あれ、でも冴島さんは眞宮組の人ではないんだよね。痛む頭で考えていると「何か気になることがある?」と優しく訊ねてくる。 「えっと···冴島さんは、眞宮組の人ではないんですよね···?」 「そうだね。」 「じゃあ何で、組員さんを···?」 「んー、志乃に許されてるんだよ。ほら、俺と志乃って仲良しだから」 笑顔でそう言った冴島さんだけど、仲良しなところはあまり見たことがない。 「吐き気はどう?」 「ん···少し」 「たくさん飲んだんだね。吐き気が治まったらお風呂入ろうか。もう夜だから」 「···冴島さんは、お仕事は?俺のせいでお仕事出来ずにここにいるなら、俺のことは気にしなくていいですよ」 「ん?俺ね、本音を言うと仕事は嫌いなんだよね。梓君と話してる方がずっと楽しい。」 冴島さんは嬉しい事を言ってくれる。 「梓君の嫌な事とか、好きな事、それから···うん、色んな事教えて欲しいな。」 「俺も、冴島さんの事知りたい」 「うん。じゃあ沢山話しようか。」 冴島さんは俺にとって嫌な事はしない。 いつも、俺が風邪をひいた時や、怪我をしたとき丁寧に看病してくれるし、手当をしてくれるから、今は俺の味方だと思う。 だから、安心して自分の事について話が出来ると判断して、冴島さんの言葉に頷いたのだった。

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