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第120話
お風呂に入って冴島さんの作ってくれたご飯を食べた。
お酒は控えようねと言われたので、ジュースを飲みながら冴島さんと話をする。
「俺が志乃と出会ったのは高校の時だよ。入学式で明らかに堅気じゃないオーラの子が1人いて、それが志乃。2年までは何の接点もなかったんだけど、3年の時に志乃と立岡の喧嘩に巻き込まれたんだよ。」
「志乃と立岡さんが喧嘩してたんですか?」
「そう。それもすっごく下らない喧嘩だよ。珈琲の話。無糖か微糖かでね。因みに志乃が無糖で立岡が微糖ね。」
「え···」
予想以上に下らない喧嘩の内容に呆れてしまう。
「原因はそれなのに、2人とも教室で殴りあってさ。3年で受験ってこともあって、凄く邪魔だったからどうにかしようと思って、つい···机を投げたんだよ。」
「机を···投げた···?」
楽しそうに思い出話を話してくれる冴島さんだけど、内容が怖すぎる。
「そう。志乃は避けたんだけど、見事それが立岡にヒットしてね。腕の骨を折ってたかな。でもそれ以来志乃は、俺が無糖派で仲間だって思ったみたい」
「···あの、志乃の考えてることがあまり理解できないんですけど···」
「だよね。俺もわかんない。高校生の頃の志乃ってすごく単純だったんだよ。自分の敵を倒した奴は自分の味方だと思ってたわけ。」
今の志乃では考えられない程、単純だ。
「でもね、俺はその単純さが嫌いじゃなかったから、それからつるむようになった。」
「そうなんだ···」
「そんな単純な頃の志乃を知ってる俺は、志乃がやるって決めたらやる奴だって知ってる。」
その意味がわからなくて首を傾げる。
「君が、施設に入っていた間、志乃は君の所在がわからなくて、ひっそりと内密に探していたんだよ。それこそ親父さんにもバレないように、俺と立岡と3人だけで。」
「でも···俺と会うまで、俺がどうなっていたか知らなかったって···」
「その説明をしたのは親父さんの前ででしょ。本当は違うよ。虐待されていたことも、施設にいることもずっと知っていた。···でも親父さんに秘密にしていたから、堂々とは動けない。どうするのが1番、君にとって安全で安心かを考えたんだよ。───けど、街で君を見た時に志乃は我慢ができなかったんだと思う。」
街で会った時。
確かに、ちらっと俺の顔を見ただけでは俺が佐倉梓だとはわからないはずだ。
本当はずっと俺を見つけようと探していてくれていたんだ。
「君の父親を捕まえたのはその後。本当の計画では先に捕まえて親父さんに報告してから、君を迎えに行くつもりだった。俺も立岡も色々していたことがバレないように、志乃はわざわざ夏目君を使って、君のことを調べた。」
それは例えば、俺が虐待を受けていたことや、施設にいた事をだろう。
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