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第123話 志乃side
昨日は本家に泊まり、朝起きて支度をすると車を出して1人で夏目の両親所に向かう。
夏目の両親はもう、里緒のことは胸の中に大切な思い出として残していて、悲しみに浸ってはいない。前を向いてそれぞれの人生を歩んでいる。
夏目の両親とは昔から何度か会っているし、夏目の事で連絡を取ってもいる。会うことには全く緊張はしないが、今日話そうとしている内容は、両親の傷を抉ってしまうことになるのではないか。と少し不安に思う。
「···はぁ」
夏目の実家まであと少し。会ったらまず何を話そうか。頭の中でごちゃごちゃと考えるのは悪い癖だ。
「思ったことを言うだけだ。大丈夫」
深呼吸を繰り返す。
やっと着いた場所。家のインターホンを鳴らせば夏目の母親が家のドアを開けた。
「あら、志乃君じゃない!」
「御無沙汰してます。···すみません、斗真君が居なくて···」
「いいのよ。斗真の事で話があるんでしょ?」
「はい。」
「上がってちょうだい。」
夏目の実家に上がると、夏目の母親が珈琲をいれてくれ、俺は話を頭の中でまとめた。
「この間、里緒の命日だったでしょう。お墓に行ったらあの子の好きな色のお花があってね。···あれは志乃君ね?」
「花は斗真君が選びました。斗真君も近くまで行ったんですけど、まだ会うことは出来ないみたいです。」
「···貴方には何度も言ってるけど、私もお父さんも斗真の事を恨んでないの。むしろ里緒と2人だけにしたのを申し訳なく思っているわ。」
俺はその事を何度も聞いた。だから知っている。けれど夏目はあの事件以来1度も面と向かって両親と話したことがないから、その事を知らない。
「お願いがあります。」
「何?」
「···俺の、行方不明だった従兄弟の···梓が見つかりました。そいつは小さい頃から父親に虐待をされた挙句、捨てられていたんです。」
「·········」
それはあまりにも酷い内容だったんだろう。言葉を失い目を見開いている。
「やっと、見つけました。でもそんな過去のせいでショックを受けて記憶をなくしていました。···梓は今もずっと1人でトラウマと戦ってます。あいつには頼れる奴がいない。だから俺が支えてやりたい。」
「···つまり、斗真は私達で支えろって事ね?」
「はい。今までは梓がいなかった。だから俺が付きっきりで斗真君のことを見てられたけど、斗真君にはあなた達がいる。」
「···そうね。」
「俺は梓が苦しんでいるのを黙って見ていることは出来ない。だから、お願いです。あなた達が斗真君を支えてやってください。」
夏目の両親が夏目に歩み寄ってない訳では無い。だから俺の言葉は失礼かもしれないけれど、俺の本音が届けばいいと思う。
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