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第124話 梓side
志乃と会えなくなって、早三日。
たまにどこか仕事に行く冴島さんだけれど、すぐに戻ってきては俺の世話を焼いてくれる。
「気分転換に外に行く?」
「···気分、晴れますかね」
「梓君次第かな」
困ったように冴島さんがそう言うから、迷惑をかけているんじゃないかなと思う。
「志乃、迎えに来てくれない」
「梓君は本当に志乃が好きだね。」
「俺は志乃の事···好き」
「うん。わかるよ。だから信じてあげて」
頭を撫でられて、目を閉じる。
志乃の手じゃないけれど、そうされるのは心地が良い。
「夏目さんはどうしてるんだろ···」
「気になる?」
「···うん」
俺なんか気にしないで、普通に生活をしているのなら、すごく腹が立つ。もしそうならこの前は意識が錯覚してわからないまま殴ってしまったけど、意識がはっきりしてるうちに殴ってやりたい。
「あ、悪い顔してる。」
「えっ!」
考えていることがバレたのかと思って顔を両手で隠す。すると冴島さんはクスクス笑って「悪いこと考えてた?」と聞いてきた。
「···少しだけ」
「本当?」
「···嘘。すごく悪いこと。」
冴島さんにはそう言ったけれど、今の俺は別にそうではないと思う。人を殴ってスッキリする気持ちだってある筈だから。
そして気付いたのは俺のこの思考が父親と似たり寄ったりなのではないかということ。
「さ、冴島さんっ」
「ん?何?」
もしそうなら、俺は誰かを殴ることに悦を覚える最低な父親のようになるのかもしれないと思って怖くなる。
「俺···あの人と血が繋がってるから、もしかして···人を殴って喜んじゃうのかな···」
「夏目君を殴った事を思い出したの?」
「···さっき、夏目さんをもっと殴ってやりたいって考えてた。」
「それは悪いことだね」
冴島さんはそういうだけで、怒ったりはしない。だから俺のこの嫌な気持ちを肯定してくれているようにも思えて、どうすればいいのかが分からない。
「殴っちゃだめ···」
「そうだね。でも、誰でもそういう時はあると思う。君だけがそういう気持ちになる訳じゃないから、あまり気にしなくていい。どうしても殴りたいなら夏目君じゃなくて志乃にしておきな。俺も志乃には少し苛ついてるから」
優しい笑顔で言うもんだから、ついつい笑ってしまった。
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