125 / 292
第125話 志乃side
「どこ行くんですか?」
「秘密だ」
夏目を助手席に乗せ、行き先も告げずに車を運転する。
あらかた予想はついている様で、夏目の体は強ばっていて、申し訳なくも感じた。
「な、なんで···?俺、何か悪いこと、しましたか···?」
そして怯えたような声でそんなことを聞いてくる。
「してない。ただの俺の我儘だ」
「志乃さんの、我儘···。それは珍しいですね」
「そうか?」
「はい。だから···どこに連れてかれても、嫌じゃないかもしれない」
それが本当ならどれだけ有難いだろう。
手を伸ばし、夏目の頭を撫でると嬉しそうに笑うから、この笑顔を消してやりたくない。
「···着いた」
「···はい」
着いた場所は夏目の実家で。
今日で、終わりにする。
この不安定で複雑な、名前をつけることの出来ない関係を。
「おかえり、斗真」
「···た、だいま」
震える声を聞きながら、そう決意した。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!