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第126話

夏目の母親と父親が対に座り、俺の隣に夏目が座る。 そして話すのは今までの事とこれからの事。 夏目の母親が涙声で里緒の事を話し出す。 「斗真の事は、全く恨んでない。···あの日、斗真を里緒と2人だけにしてしまってごめんなさい。」 「···嘘、嘘だ。だって、姉ちゃんが死んだのは···お、俺がちゃんと、見てなかったからで···っ」 初めて聞いた両親の本音に夏目は混乱していて、震える手が俺の手に触れる。 「本当よ。ずっと伝えたかった。けどあの日から斗真が私達と話してくれることが少なくなったから···」 「い、今更···俺、だって···」 「斗真、悪かった。」 夏目の父親が頭を下げる。夏目は目からポロポロと涙を零している。 頭では理解ができているけれど、心では理解ができていないらしい。 「ぁ···や、やめて、俺が悪くて···」 「斗真は何も悪くない。私たちが悪かったのよ。だからもう、自分を許してあげて」 夏目は机に伏せって泣く。とても寂しそうな背中を撫でようとした手を引く。 これは俺の役目では無い。 夏目の両親を見る。二人は立ち上がり夏目の背中を撫で、抱きしめる。 「ごめんね、ずっと。ずっと貴方に背負わせて」 俺がこれ以上ここにいても邪魔なだけだなと思い、夏目の母親の肩に触れて、それからこの家を出る。 これからは夏目の好きにすればいい。 根はとても優しい奴だ。元いた明るい世界に戻るのもいい。 俺は早く、梓を迎えに行かねえと。 車に乗り込み、梓の家までを目指す。 心は晴れていて、清々しい。 対向車線から車が走ってくる。 やけにふらふらしている車が、まるでどこか一点を目指すように走ってきて、それが徐々に近づいてくる。 まずい、そう思った時には遅くて。 ガン、と強い衝撃。 頭から血が垂れているのが分かる。 「···っ」 痛みが体を支配して、動かない。 ゆっくりと閉じていた目を開けると人が立っていて、そいつが俺に腕を振り下ろした瞬間、腹部をまた新たな痛みが襲う。 それを最後に、目の前は真っ暗になった。

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