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第130話

医者が来て俺の体を診てくれる。 安静にしているようにと言われて頷き、それを確認した医者は病室を出て行った。 医者が俺を診ている間に冴島が親父に連絡をしたらしく、親父にお袋、それから夏目がやって来た。 「お前が起きてよかった。暫くは大人しく休んでろ」 「ああ」 「お前を狙ったやつはもう突き詰めた。あとは俺がやっておく」 「ありがとう」 親父に礼を言うと優しく笑い、頭を撫でられた。一体俺がいくつだと思ってるんだろう。 お袋には抱きしめられて、体が少し痛んだけれど気付かれないように耐えた。 「ちゃんと大人しくしてるのよ!たまに見にくるからね!」 「してるよ」 親父とお袋はそれだけ言うと病室を出て行く。そして夏目はフラフラした足取りで俺のそばに来て、俺の手を取った。 「目、目が覚めて、よかった···っ」 「ああ。お前がやっと前を向き始めたのに、寝たまんまじゃいけねえしな」 「ふふっ···俺、志乃さんが起きたら墓参り行こうって家族と約束したんです。」 「凄ぇじゃねえか。」 夏目と笑い合い話していると、梓がちらりと見えて、その表情が何とも言い表しにくい表情で、とりあえず俺と夏目が長話をしているのを嫌なんだということはわかる。 「じゃあ俺、仕事があるから···」 「無理するなよ」 「はい。梓さんも、冴島さんも、また」 梓と冴島は夏目に向かい軽く頭を下げた。 「志乃」 「何だ」 夏目が居なくなると梓が俺の名前を呼んで、近づいてくる。 「教えて欲しい。でも···沢山話してたから疲れたよね。少し寝る?」 「いや、いいよ。大丈夫」 「本当?」 不安そうな梓の顔が俺を覗き込んできて、頭を撫でてやると嬉しそうに笑った。 「夏目の事だが···さっきの様子を見ただろ。あいつは両親との間にあった誤解を解くことが出来た。これからは両親が夏目を支えていくと思う。俺はただの上司だ」 「それ、言葉にして夏目さんに伝えた?」 「···いや」 「アウト。失格。やり直してきて」 冷めた目でそう言った梓に、確かにそうしておくべきだったと反省する。 「悪い」 「次会った時に伝えて、絶対。約束だからね」 「わかったよ」 梓はまだ納得のいってないようだけれど、仕方が無い。 「で、志乃。そろそろ立岡を日本に戻してくれない?俺はただの医者だから梓君を護衛することは出来ないよ」 「護衛?何で」 「は?梓君は今一人暮らしをしてるだろ。大学までの送迎とか、買い物とか、護衛がいないと今の状況じゃ行かせてあげられない」 「一人暮らし?梓はずっと俺と暮らしてるだろ」 「何言ってるの。お前が梓君を怒らせて梓君がお前の家を出たんだよ。」 「···そんなの覚えてねえ」 記憶を巡ってもそんなものは存在しない。 「一時的な記憶障害かもしれないな。頭打ってたみたいだし。」 「一人暮らししてるなら、それでもいいけどよ、もう帰ってこい」 梓を見ながらそういうと、夏目のことが終わってからと言われ、唇を噛んだ。

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