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第145話 志乃side

幹部を連れて向かった場所には梓の携帯が置かれてあっただけで、本人はいなかった。 それに苛つきを隠せずに、舌打ちを零す。 「早く探せ。」 「はい」 無駄な行動だった。梓の携帯を手に取って車に乗り、車内で立岡に連絡を入れる。 情報で一番長けているのは立岡だ。あいつならきっとすぐに見つけてくれるはずだ。 「はいはーい」 「立岡か。すぐに梓を探せ」 「え、待ってよ。俺今やっと日本について──···」 「一日だけ待つ。」 「ならいいや。どうせ本家行く予定あるし。ていうかどうしたの?梓君、攫われでもした?」 「そうだ。すぐに見つけろ」 そう言うと軽い声で「了解」と言われ、電話を切る。 殴って寝かせたと言っていた男の言葉を思い出して、梓が自分の親父と重なりパニックを起こしていないかが不安だ。 そして、もしかしたらその男が梓の体に触れた可能性がある。 「くそっ」 拳を太腿に落とす。 梓に早く会いたい一心で、頭を働かせた。 *** 本家に帰り親父に罠だったこと、それから立岡が来ることを伝えた。 梓は大学で攫われたと考えるのが一番なのだろうか。それならば目撃者もいるはずだ。 けれど、そんな人目のつくところで攫ったりするか? 今朝の記憶を巡らせる。確かに今日は試験ということもあってか学生は疎らにしか居なかった。誰か、見ていた奴はいないのか。 そう思っていると、梓の携帯が音を上げる。 画面を見ると”西村さん”と名前が出ていて、大学の知り合いかもしれないと電話に出た。 「梓?今どこいるの?試験出てなかったけど···もしかして槙村と一緒?」 「···悪いが梓じゃねえ。」 女の息を呑む音が聞こえてきた。 どうやら梓は試験を受けられなかったらしい。 「も、もしかして···眞宮志乃···さん?」 「ああ。聞きたいことがある」 「何ですか···?」 女のさっきの言葉に出てきた槙村という名前。どうして今、槙村と一緒に梓がいると思ったのか。 「槙村って誰だ。そいつが梓と会ってるところを見たのか?」 「槙村は···今は休学してて、でも今日梓と会ってるのを見たって人がいて···」 成程、と納得すると同時、そいつが梓を攫ったのだろうかと思い、そいつを調べることも立岡にすぐに連絡する。 「あの眞宮さん」 「何だ」 「梓のこと、監禁してるって噂···本当なんですか?」 どうしてそれが今気になるのかがわからない。その過去は俺にとっても梓にとっても、今はそれほど重要ではないから。 「監禁はしていた。今は違う」 「···梓と、どういう関係なんですか···?」 「···別に、知らなくていいことだ。教えてくれてありがとう。じゃあな」 電話を切って、手がかりを掴めたことが嬉しくて、先に進めると少し安心した。

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