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第153話
***
梓を連れて帰ってからそろそろ1週間が経つ。梓は、あれ以来外に出ていない。
俺が外に出ることも嫌なようで、俺が仕事に行こうとすると泣きそうな顔をする。
「梓、肩まで浸かれ」
「うん。」
風呂に入ると俺に抱きつくばかりで言うことを聞かない。仕方なく手で掬ったお湯を肩にかけてやる。
「明日、仕事行くの?」
「行く。」
「···俺は?」
「どうしたい。明日は俺は本家に行くわけじゃないからお前と一緒にはいられない。不安に思うならここに俺の信頼できる奴を呼ぶ。」
「···一緒にいれないの。寂しい」
「そうだな」
それ以降は口を閉ざし、話すことをやめる梓。槙村に対して余計なことをしやがって、と怒りしか湧いてこない。明日はその怒りを処理しに行く予定だ。
「お前は家にいるのが一番安全だ。だから家で留守番しててくれるか?」
「···わかった」
梓は俺の顔を見てむすっと不満そうな顔をしてそう言う。どうやら納得は全くいってないらしい。
「そんな顔するなよ」
「元々こういう顔だし」
「お前なぁ···」
「明日の仕事は危なくないの?」
「ああ」
梓が俺の濡れた髪を退け、額にキスをする。
したいようにさせてやってると、瞼に頬に鼻に、最後に唇に梓と唇が触れる。
「なら、よかった」
「···そろそろ出るぞ」
「ん。」
梓は自分の足で立って風呂から出る。
体をバスタオルで拭いてやると、今度は梓が俺の体を拭く。
「ねえ志乃」
「何だ」
「志乃ってさ、俺のこと大好きだよね。」
「それはお前もだろ。」
つい、ふっと笑った。
すると梓も柔らかく笑って、ココ最近のうちでは一番自然な笑顔だったと思う。
「明日、誰くるの?」
「秘密だ」
お互いに髪を乾かして、その日は早く眠った。
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