156 / 292

第156話

結局、夏目さんと出かけることになった。 今日は寒いと夏目さんに聞いたので少し厚着して外に出る。冷たい風が頬に当たって咄嗟に両手で温めた。 「寒っ!」 「車で行きましょ」 「はい」 夏目さんが運転する車に乗り込んだ。 シートベルトを締めると車は走り出す。 「甘いもの巡りって楽しいですよねぇ。梓さんはどんなのが好きですか?」 「俺は···カスタードクリームとか好きだから、パイとか···」 「俺もパイ好きー!」 気分良さげに車を運転する夏目さん。俺は前を向いてどこに行くんだろうと考える。 「ここです!ここ!」 「何かテレビで見たことあるかも!」 「結構テレビに出てるんですよねぇ。ほら、ケーキもプリンも有名だって!」 俺はどうやら夏目さんを誤解していたらしい。あんな事があったから、嫌な部分しか見えていなかったけど、普段の夏目さんは優しい。 「プリン食べたい···」 貰ったままのカードを出して買おうとすると「俺が払うから!」と夏目さんに止められる。 「え、でも···」 「いいから!ね?」 「···ありがとうございます」 結局夏目さんに買ってもらい、その後も三件の店を回って、家に着いた頃には両手にたくさんのお菓子を持っていた。 *** 「あの···聞いてもいいですか?」 「何ですか?」 甘いものを食べながら、ダラダラと過ごす。 それでも気になっていたことがあって、今やっと口に出せる。 「志乃の今日の仕事って···槙村が関係してるんですか?」 「んー···多分、あんまり話しちゃいけないことなんです。だから···秘密ですよ。」 「はい」 「俺が志乃さんから聞いた話は、梓さんを保護したあと、槙村は良からぬ事を考えていたらしくて、仲のいい···眞宮組とは敵対関係の組に今まで以上の協力を求めたんです。」 「ま、待って!槙村って極道なんですか!?」 「いや、彼はバイトで少し関わってた程度です。完全に白の人間ではないけれど、こちら側に浸っていたわけでもないです。」 少し難しい。とりあえず白でも黒でも無さそうだから、グレーと思っていよう。 「だから、槙村がこれ以上下手な事を起こさないように、今話しに行ってます」 「話、だけ?」 「···まあ、一応は」 視線をそらした夏目さんにそうではないと理解した。多分痛いこともしてるんだろう。志乃から与えられる痛いことなんて、きっと声も出せないくらいだろうから少しだけ、同情した。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!