157 / 292
第157話 志乃side
両手足を縛られコンクリートの壁を背凭れにして項垂れるのは、梓を攫った槙村。
槙村の頭からぽたぽたと落ちる赤い血が、地面を汚す。
そんな様子を椅子に座り見ていた俺は、いつまで経っても槙村が口を開かないことに苛々としていた。
「なあ、言えねえのか?電話では散々話してたくせによ」
「···っ、はぁ···」
「おい、自白剤打て」
隣に立っていた相馬にそう言えば注射器を持ち、怯えて逃げようとする槙村の腕に、問答無用で薬を打った。
「っ、あ゛あぁぁっ!!」
途端、座る体勢を保つことも出来ずに地面に崩れ落ちた槙村。見開いた目からは涙を流している。
「早く言えよ。じゃねえと二本目打つぞ」
「がっ、あぁぁ···っ」
意識が朦朧としているらしく、面倒だなと思いながら立ち上がって腹を蹴る。
「っ!」
「おい、早くしろ。」
「···はぁ、ぁ、な、何、だっけ···」
「テメェが梓を誘拐した理由は?何をしようとしてた」
「···んっ、はぁ、あんたが···自分の、ものにしたように···して、やろうとしてた···」
下卑た笑みを浮かべる槙村。
「どうやってだよ。梓を殴ってまでか?」
「そ、うだよ···殴って、大人しくさせて、あいつを抱いてやろうと思ったんだよっ」
前までの俺とやっている事は変わらない。けれど腹が立つのは、今は梓を傷つけることが自分の中で許せないからだろう。
「まあその気持ちは分からんでもないがな」
「っ、い、てぇ···」
「俺がこうやって自分の手で誰かを痛めつけたりすることはあんまりねえんだよ。」
「なら、やめろよ」
「けどな、お前は俺の物に手を出したんだよ。それは許されることじゃねえよな?」
そう言うと悔しそうに顔を歪める。
そんな槙村の顔を踏んだ。
「お前はもう二度と梓に会えない。日本にも居られないようにしてやるよ」
そうして頭を蹴ると槙村は意識を飛ばした。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!