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第166話 志乃side
***
ある日の昼下がり、思いついたように梓が俺に聞いてきた。
「槙村ってどうなったの」
「···何で」
淡々と飯を食いながら、何でもない様子で言うから、それが気になった理由が気になる。
「思ったんだけど···志乃ってほら、極道じゃん」
「そうだな」
「俺はそんな志乃のものじゃん」
「ああ」
「志乃のものに手を出した人はどうなるのかなって」
「最悪殺す」
「槙村も殺したの?」
「いや、生きてる」
ふーんと興味無さそうに言う梓。お前が聞いてきたくせに、なんて、別に思わない。これが梓のマイペースでいい所でもあるから。
「志乃のものに手を出した人って、何人くらいいたの?」
「さあ。そもそもそんなに特別なものはねえし···」
「そのせいで何人殺したの?」
「···そんなの覚えてねえよ。」
俺の作ったパスタを頬いっぱいに詰め込んだ梓は、また二度、三度頷くだけで興味は無さそうだ。
「結局大学の試験受けれなかったし」
「ああ···そうだな」
「間違いなく前日の勉強は無駄だった。···そうだ、俺はこれから何したらいいの?」
「好きなことしていい。けど外に出るなら護衛をつけろ。これは約束だ。」
「買い物にも?」
「そうだ」
梓が小さな声で「めんどくさぁ···」と呟いた。それに申し訳ないと思うけれど、梓が危険に巻き込まれてしまうのは嫌だから、約束を守ってもらう他ない。
「そう言えば幹部の···神崎さん、だっけ?あの人、すごく綺麗な顔してるね」
「···興味があるのか?」
「うん。なんか···人形みたいに顔が整ってる。ほら、目の色も左右で違ったし···本当に綺麗だった」
「本人は嫌がってるけどな。ただあいつは仕事に対しては真面目だが、プライベートでは極度の面倒臭がりだ。あいつは頼らない方がいい」
「いいの?仲間をそういうふうに言って」
「仕事での仲間だからな。別にいい」
仕事では頼りになる。判断力も決断力も、幹部の中でも飛び抜けているから。
「今度話してみたい」
「仕事中で暇な時にしろ。勤務時間外に話しかけても無視されるだけだ」
「えー、それは嫌だなぁ」
笑いながらそう言う梓に、信じてないな?と思う。
「今から何する?」
「仕事」
「···俺に構ってくれないの」
「···少しだけ」
最近は梓に構い過ぎて自分のするべきことが出来ていない。飯を食い終えて、皿を洗いDVDを見だした梓は、そのあとすぐに眠ってしまったので、俺はその間に急いで仕事を片付けた。
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