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第168話

梓の寝顔を眺めているとインターホンが鳴って、玄関のドアを開けると神崎がいた。 「ありがとう」 「いえ」 「茶でも飲んでいけ」 「ありがとうございます」 申し訳なく思いながら眠る梓を起こした。神崎に興味があるようだったから丁度いいと思って。 「んぅ、なにぃ···」 「神崎だぞ」 「神崎···えっ!神崎さんいるの!?」 飛び起きた梓は、神崎の姿を捉えると慌てて立ち上がり「こんにちは」と頭を下げた。 「こんにちは。お邪魔してます」 そして神崎も律儀に頭を下げてそう言う。 「珈琲でも···あ、ちょうどお菓子もある!神崎さんは甘いの食べれますか?」 「はい。でもお構いなく」 梓は急いでキッチンに行く。 俺は神崎から物を預かって、中身を確認した。 「そうだ、今日の電話番は誰だ」 「最近入った奴です。相手が若だと知って泣きそうになってましたよ。殺されないかって」 「···殺しはしないが、ちゃんとした仕事の仕方を教えておけ」 「わかりました」 「···座れば」 「すみません」 テーブルの席についた神崎。緊張しているのかいつもより肩に力が入っている気がする。 「···神崎」 「はい」 「お前に任せたい仕事がある」 「どうぞ何でも」 「まあ、この仕事はまだ時期じゃねえから、その時が来て、お前に余裕があったら頼むよ。」 神崎は一度頷いて、それとほぼ同じタイミングで梓が珈琲とお菓子を持ってきた。そのお菓子はパイで、心做しか神崎の目が輝いた気がする。 「ゆっくりしていってくださいね!」 「ありがとうございます」 梓は神崎をまじまじと見ていて、その視線から逃げるように神崎の目が少し伏せられた。

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