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第170話 梓side

*** 寒い冬の季節。あと2週間程で新たな年がやってくる。 「志乃、お酒飲みたい気分」 「いいけど、絶対に飲みすぎるなよ」 「はーい」 年末ってことで志乃は何やら忙しいらしい。朝早くに出て行っては、夜遅くにお酒を飲んで帰ってくる。それでも志乃の意識がはっきりしている時は、夜に愛し合っている。けれど、それでも日中には寂しさを感じて、たまに文句を言いたくなる。 「志乃も飲む?」 「いらない。」 「ふぅん。そんなに忙しいの?」 今も朝からパソコンとにらめっこしてる志乃の背後に回り、肩に顎を乗せて画面をぼんやりと見る。 「ああ、忙しい」 「大変だね」 「でもあと一週間で終わらせる。」 「そう。無理しないでね」 頭を撫でられて、嬉しくなって、志乃の頬にキスをしてから離れる。 「肩揉んだげる」 「ありがとう」 志乃の肩を揉みながら考えるのは来年のこと。 俺はきっと来年もこのまま、志乃と何も変わらずに過ごしていくんだと考えると、悲しい気もする。 「眞宮組は忘年会とかするの?」 「大晦日にな。そのまま元旦でそこでも祝って···三日くらいは面倒だな。」 「俺···年越しで皆でワイワイしたことなんてないから、そういうの楽しそう」 「···今年からはお前も強制参加だぞ。嫌って思うくらい楽しめばいい」 「本当!?」 嬉しくて大きい声が出た。志乃がちいさな声で「うるせえ」と言ったのが聞こえる。 「皆でお酒飲んでご飯食べるの!?」 「ああ」 「たくさん話する?楽しい?」 「まあ、飽きることはないと思う」 志乃に強く抱きつくと、仕事をしていた手を止めて俺の方へ振り返る。 「楽しみ!どうしよう!」 「どうもしなくていいだろ」 「もう!俺すごく楽しみなんだよ!?」 「わかったから。ちょっと落ち着けよ」 苦笑を零しながら俺を抱き締め返してくれる志乃。ぐりぐりと肩に顔を押し付けた。

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