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第172話
「志乃は家族と仲良しで羨ましい」
親父さんと愛美さんが帰ったあと、片付けをしながらついポロっと本音を吐露した。
「俺は家族がいないから、ああやってお話もできない」
「···梓、お前も俺たちの家族だろ。他人行儀な態度は取らなくていい」
「でもやっぱり···俺の母さんと父さんじゃないもん、」
心にぽっかり穴が開いたように寂しさが襲ってくる。俯いていると志乃に抱きしめられ、背中をポンポン撫でられて、その衝撃に涙が溢れては零れていく。
「母さんに会いたい」
「············」
遠い記憶の中に、母さんが俺に笑いかけて名前を呼んでくれているのを思い出す。
「名前、呼んで」
「···梓」
「もっと」
「梓」
母さんがもし、生きていたら、俺も志乃と愛美さんみたいな関係になれていたのかな。きっと親父さんの妹だから、心は広くて優しいんだ。
「少し休むか。最近忙しかったからな」
「···うん」
志乃に寝室に連れられて、ベッドに寝転がる。
抱きしめられていると、自然と心は癒されるらしい。いつの間にか睡魔も襲ってきて、目を閉じる。起きたら片付けの続きをしようと思いながら。
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