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第173話
大晦日になって、志乃につれられ眞宮組の大広間に居る。そこにはもう既にお酒を飲んで楽しそうにしている組員さんたちがいて、俺はそんな皆さんを見るだけでも楽しい。
「梓、ちゃんと楽しめよ。酒は飲むな」
「うん。」
志乃の隣に立って、頷く。
そうしていると夏目さんがやって来て、俺の名前を呼んだ。
「こっち来て食べましょ!甘い物ありますよ!」
「甘い物!やったあ!」
志乃のそばから離れて夏目さんと一緒に大広間の端っこに行く。そこには神崎さんもいた。
「神崎さん、こんにちは」
「ん···こんにちは」
食べていたものを飲み込んで、前あった時と同じ無表情で、けれど挨拶をしてくれる。
「神崎、それ取って」
「ん」
「お前親父に材料とってくるように頼まれてなかったか?」
「頼まれた。でも速水が行ってくれるって。俺は甘いの食べて休んでろって」
「そういえばお前徹夜だっけ?」
神崎さんがコクっと頷く。
夏目さんと神崎さんはどうやら仲がいいらしい。
「梓さんもこれ食べます?美味しいですよ!」
「はい!」
「···酒、飲みますか」
神崎さんが話しかけてくれる。本当はいつも志乃に飲まないようにって言われてるけど、これは神崎さんと話せるチャンスだと思って受け取った。
「わ、甘い」
「美味しいでしょー!」
「こっちも美味しいですよ」
「ありがとうございます!」
楽しくて、話すことも食べることも飲むことも、どんどん進んじゃう。
「···神崎さんは、綺麗なお顔、してますよねぇ」
「···夏目、これ、酔ってるぞ。目が据わってる」
「···酔ってるな」
「俺ぇ、ずっと神崎さんと···、お話したくてぇ」
「そうなんですか。おい、若呼んでこいよ」
「うん」
神崎さんの腕にとんとんって触る。
「目も、すごく綺麗···キラキラしてて···宝石みたい」
「宝石って···ちょっ、大丈夫ですか」
「神崎さん綺麗ぃ」
顔を近づけてまじまじと神崎さんを見る。
困ったように笑う神崎さんと同じような笑顔を浮かべてみせた。
「梓」
「っ、わぁ」
体が浮いて、神崎さんが遠くなる。手を伸ばすとその手を志乃に取られた。どうやら志乃に抱っこされたらしい。
「何してる」
「神崎さんと、お話してた」
「酒飲んだのか?ダメだって言っただろ」
「だって!神崎さんと、お話したかった!」
そう言うと志乃は呆れたように溜息を零す。
それから神崎さんを見て「すまなかったな」と言った。
「あー!降ろしてえ!神崎さんと話するのー!」
志乃に抱っこされたまま、どこかに連れていかれた。
「どこ行くのぉ!」
「俺の部屋」
「楽しめって、言ったのにぃ!」
「酒飲んだだろうが。誰彼構わずに距離感が近くなる癖が直ったなら向こうに戻してやる」
「そんなの知らないもん!」
えぐえぐと泣いて志乃の肩に顔を押し付ける。志乃はそんな俺の髪を撫でて、部屋に着くとベッドに下ろした。
「水飲め」
「ふんっ!」
「お前な···子供じゃないんだから、言うこと聞け」
顎をがっと持たれて、水の入ったペットボトルが口に寄せられ傾けられる。仕方なく水を飲んでやれば、志乃はまた溜息を吐いた。
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