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第174話
ぱっと目を開けると志乃がそばに居た。あれ、なんで俺寝てるの。そう思って間もなく、時計を見た。
「え、ま、まだ年明けてない?」
「まだ。あと30分くらい」
「寝すぎた!何で起こしてくれないの!」
体を起こすと頭がぐわんとして、ベッドに手をついて体勢を維持する。
「ん、水」
「···俺、楽しみたかったのに」
「いうこと聞かなかったくせにか」
「···ごめん」
お酒のことで志乃が怒ってるのはわかる。でも大晦日くらいいいじゃん。そんな気持ちで、水を飲んで志乃に抱きつくと頭を撫でられた。
「どうせまだはしゃいでる。向こう行くか?」
「うん」
「気分は?悪くないか?」
「うん、大丈夫」
志乃に手を引かれて部屋を出て、大広間に戻る。そこにはまだたくさんの人がいて、お酒を飲んでワイワイとしていた。
「梓、大丈夫か?」
「はい、ちょっと···お酒飲んじゃって」
すぐに親父さんが話しかけてくれて、志乃と一緒にストンとその場に腰を下ろす。
「そうか。体は辛くねえか?」
「はい」
親父さんの大きな手が俺の頭を撫でる。俺はなんだか嬉しくて、ついつい頬が緩んだ。
「辛くなったらいつでも言え。今日だけじゃなくてな」
「あ、ありがとうございます」
俺を大切にしてくれる親父さんが優しくて、涙腺までも緩みそうになる。それを隠すように笑って、志乃の方を見た。
「どうした?」
「···何でもない」
おめでたい時がすぐ近くにやって来ているのに、泣いてちゃダメだいろんな人から渡されるこご飯を食べて、あと数分で年が明けるという時、志乃が俺を突然抱きしめた。
「お前を監禁してからは暫く、酷い扱いをして悪かった」
「えっ、自覚あったの!?」
「···いろんな事で悩ませて、辛い思いをさせたことも」
「···うん」
志乃の背中に腕を回して、トントンと優しく叩く。周りなんて、もう見えなかった。
「でも、お前とまた会えたこと嬉しかった」
「···俺も、今は凄く嬉しい」
「来年も、一緒にいるだろ」
いてくれるかどうかを聞かないのが志乃らしい。ふふっと笑って志乃を抱きしめる力を少し強くする。
「明けましておめでとうございます!」
そう騒ぐ声が聞こえてくる。
「今年もずっと、一緒に居るよ」
そう言って志乃にキスをした。
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